本連載は、資金繰り表を活用した経営管理の普及を目指す、株式会社アセットアシストコンサルタントのCEO兼統括コンサルタントの大森雅美氏が、経営者が知っておくべき会社の数字や統計データの読み方を解説します。※本記事は、大森雅美氏のブログ『銀行から融資を受ける前に』に2018年10月20日に掲載されたコラムから抜粋・再編集したものです。

「縮小均衡」を目指した経営方針は愚策である

本連載では、GDPと人口統計をベースに情報を共有しています。GDPと人口統計の推移をベースに情報収集すると、マクロ的に日本の状況を捉えやすいと思ってのことです。また、中小企業経営者に役立つだろうと思える周辺資料を紹介していきます。

 

基本データとして、今現在の概数データを、GDP約537兆円、人口約1億2,640万人とおさえておきましょう。そこから、様々な資料や政策、制度をクロス分析していくと、自分の身になり、実用性が出てきます。

 

今回は、人手不足や働き方改革が多くの経営者から発せられることを踏まえて、労働力調査と民間給与実態統計調査を基に考えてみたいと思います。

 

就業者、つまり何かしら仕事についている人、自営、雇用の正規・非正規・アルバイトの形態関係なく仕事をしている人は、6,682万人(2018.8速報値)います。日本の人口の約53%が就業しています。前年同月比109万人の増加で、68か月(5年と8カ月)連続の増加だそうです。

 

景気の低迷で就業機会(仕事が見つからない)が伸び悩んでいた中にあって、昨年(2018年)は大幅に改善されてきたといって良い統計数値となっています。完全失業率2.4%、失業者約170万人(2018年8月)という数でみても、2018年は大幅にさがってきたといえます。2年前の2016年8月には3.2%でしたから。

 

ちなみに完全失業率の数値は、「求職している人の中で、職についていない人の割合」という定義です。「もう働かない、働けないから求職してませんという人」はその数値には入りません。そういった事情の人は非労働力人口という項目で4,236万人(2018年8月)います。

 

少子高齢化の問題の解決方法を持たないまま、約60%の就業者で国内の生産性を上げて国民全体で支出、分配される稼ぎを創造して行かなければなりません。人不足も恒常的に続くと考えなければならないでしょう。前提条件として現状の景気回復実績と政策が上手くいくという条件がありますが。

 

前提条件が崩れ、不景気が蔓延することになれば、人手不足はあっという間に人余りに突入してしまうのです。そして倹約政策を強いれば国全体が衰退していきます。戦後の日本は厳しい景気の中にあっても多額の借金をしながらも拡大を目指して、今の日本の経済の礎を築きました。

 

縮小均衡目指して、事業拡大を諦めて衰退していく企業が今もありますが、歴史を振り返ってみても縮小均衡を目指した経営方針は愚策だと思います。

 

 

景気が回復傾向のある中、給与も増えていくはずだが…

就業者が国民の約60%、8月(2018年)のGDP速報値では年率換算1.9%上昇となると、景気が回復傾向のある中で限られた労働力で景気の回復を後押ししているとなれば、給与も増えていくはずです。

 

経営者の方々においては、経費の大部分を占める人件費を上昇させても良い業績となるはずです。

 

しかし実感として多く給与所得者(サラリーマン)、経営者が真逆の反応で、サラリーマンは低い給与に嘆き、人件費を上げたら資金繰りが厳しくなると嘆く経営者が多くいます。

 

決してその人、その経営者の能力がないという事ではなく。各業界における市場の閉塞感(売上の伸び悩み)が原因です。

 

ここで、民間給与実態調査の数値を見てみましょう。ここの読者の経営者には人件費(賃金規定)の在り方の参考にして欲しいと思います。

 

売上、利益に関わらず平均値をベースに従業員数(役員を含んでも可)×各平均値の総額は、現状から厳しいでしょうか? 余裕でしょうか?

 

参考までに男性の平均給与は532万円だそうです。

 

民間給与実態統計調査結果の概要

平成29年分の調査結果からみた主要な点は、次のとおりである。
1平成29年12月31日現在の給与所得者数は、5,811万人(対前年比1.2%増、67万人の増加)となっている。また、平成29年中に民間の事業所が支払った給与の総額は215兆7,153億円(同3.8%増、7兆8,498億円の増加)で、源泉徴収された所得税額は10兆390億円(同6.5%増、6,161億円の増加)となっている。

なお、給与総額に占める税額の割合は4.65%となっている。

21年を通じて勤務した給与所得者については、次のとおりである。

 

(1)給与所得者数は、4,945万人(対前年比1.6%増、76万人の増加)で、その平均給与は432万円(同2.5%増、106千円の増加)となっている。 男女別にみると、給与所得者数は男性2,936万人(同2.6%増、73万人の増加)、女性2,009万人(同0.1%増、2万人の増加)で、平均給与は男性532万円(同2.0%増、104千円の増加)、女性287万円(同2.6%増、73千円の増加)となっている。 正規、非正規の平均給与についてみると、正規494万円(同1.4%増、68千円の増加)、非正規175万円(同1.7%増、30千円の増加)となっている。

 

(2)給与所得者の給与階級別分布をみると、男性では年間給与額300万円超400万円以下の者が523万人(構成比17.8%)、女性では100万円超200万円以下の者が473万人(同23.6%)と最も多くなっている。

 

(3)給与所得者のうち、4,198万人が源泉徴収により所得税を納税しており、その割合は84.9%となっている。また、その税額は9兆7,384億円(対前年比7.7%増、6,967億円の増加)となっている。

 

(4)給与所得者のうち、年末調整を行った者は4,465万人(対前年比1.2%増、54万人の増加)となっている。このうち、配偶者控除又は扶養控除の適用を受けた者は1,363万人(同1.2%減、17万人の減少)で、扶養人員のある者1人当たりの平均扶養人員は1.46人となっている。

 

「収入を増やす」にはどうすべきかを考え続けよ

給与所得者は5,811万人、民間事業者支払給与総額215兆7,153億円。GDPの537兆円を頭に思い浮かべるとどのように感じるでしょうか。景気に影響を及ぼす、GDPの支出計算に大きな影響を占める消費(民間消費)の基、原資の数値がこの約216兆円という事に繋がります。

 

ちなみに日本の国債発行額(国の借金)は約1,053兆円です。これを、国民は税負担で返済していくわけです。

 

つまり、216兆円の使えるお金があるからといっても、1,053兆円の借金の返済を考えながら使わなければならないとなったら、消費は鈍りませんか。GDPが上昇し難いように思うのです。

 

でも、私たち個人個人は、諦めたらダメなのです。縮小均衡を目指してはダメなのです。収入を増やすにはどうするのかを考え続けないとなりません。お金至上主義とかいう事ではなく、今を生き抜くには、そうしなければならないゲームのルールみたいなものです。幸福論を論じている訳ではないですから。

 

上場企業の最高益、民間給与の上昇など政府発表やメディアでは景気改善の継続が流れています。一方で、少子高齢化の原因で、若者の結婚や出産を躊躇させるのは、経済的不安にあるとわかっています。格差が広がっていることも(だから平均値が今一番危険な統計数値であると思っているのです)。

 

度重なる災害の影響で景気に陰りが出てきている事を、復興で逆に景気が上がっているような報道もあります。東北の倒産件数が増えてきている事もあまり取り上げられません。

 

そこで、よく耳にする大企業のための政策、大企業をベンチマークとした政策方針の決定は、何人に影響することになるでしょうか。日本の人口1億2,640万人の中で、資本金1億円以上の民間会社の給与所得者約1,625万人(国民の約13%)です。

 

[図表3]事業所規模別給与所得者の構成割合
[図表3]事業所規模別給与所得者の構成割合

 

「景気って良くなってないし、私たちはまだ、厳しい経営状況から抜け出せてない」という偏見で一部のシーンの数値を切り取って感想を述べるのは不公正ですが、影響といっても、私一個人の感想とそれを読んで頂いている読者に影響する程度かもしれません。

 

しかし、「景気が良くなってます。企業も個人も収入アップ」という偏見で、「だから消費税を上げます。その他税制を見直して国民に実質負担を少し上げてもらいます」というのは国民の大半を実感として厳しいと感じさせてしまいます。

 

資金繰り表を活用して、自分の身は自分で守る。そのために何をすべきかを一緒に考えて、行動していきましょう。

本連載は、株式会社アセットアシストコンサルタントCEO兼統括コンサルタントの大森雅美氏のブログを抜粋・再編集したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。ブログはこちらから⇒http://masami-omori.com/column/

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