住んでいるマンションでも知っている範囲はごくわずか
大規模修繕工事計画のはじめの一歩は「自分のマンションを知る」ことです。ただし、新築と同時に入居した場合ですと、マンションの共用部分や外構(建物の外にある構造物全体。地面、アプローチ、柵、垣根、植栽など)を目にするのも引っ越してきてからというケースが大半です。
多数の棟が集まった大規模マンションなどでは、10年暮らしても自分の住戸がある棟以外には出かけたこともなく、マンション全体のことなど考えたこともなかったという住民も少なくありません。ましてや理事のほとんどが会社員であれば、日常的な建物の使い勝手やその良し悪しなど知る由もありません。
初めて理事になった場合、自分たちのマンションでも実際に知っている範囲はごくわずかしかないということを前提に、その全体像を知る方法から考えてみましょう。
とはいえ、この時点でのマンションを知る作業は、劣化箇所や修繕範囲をあら捜しすることとは違います。どんなマンションでも新築から10年も経てば、長所や短所、欠点などが見えてくることはすでに述べました。最初の時点で大切なのは、そのそれぞれを大きく把握し、マンションの特徴を知ることなのです。
「コンサルタントの調査」と「住民の意見」を参考に
建築や設備面での性能などに関しては、専門コンサルタントに調査診断を依頼することをお勧めします。第三者である専門コンサルタントが実際に現地調査を行い、新築時の設計図書と照らし合わせて十数年の経過で何が起こっているかを検証してもらうのです。これは1回目の大規模修繕工事にあたっての非常に重要な作業で、住民がマンションの持つ固有の長所や短所についての客観的な判断を知ることのできるたいへん貴重な機会です。
建物や設備の調査診断から設計図書の閲覧へと調査が進んでいくなかで、建物の基本的な問題点が明らかになっていきます。どんなマンションであれ欠点や問題点がないということはあり得ません。大切なのは建物の基礎や構造上の基本性能に関する調査結果を住民が共有していくことです。
建物の基本性能は、人間にたとえるなら「生まれつき」のもので、簡単には変えられない部分です。建築物としての長所や弱点は、設計コンサルタントが建物調査(図面確認や現地調査等)を行うことでほぼわかります。有能な設計コンサルタントであれば、客観的な技術判断を加え、わかりやすく解説してくれるはずですから、少なくとも理事会では共通に認識しておくべきです。
一方で、マンションの使用性や利便性、安全性といった部分に関しての一番の判断材料は、日常的に建物を利用している住民の感想や意見になります。住民が、自分たちのマンションで何を長所としているか、何を大切に感じているのか、どこに不満や不安を抱えているかを理事会として知ることが重要です。
これら建物調査の結果と住民の意見をベースにして、大規模修繕工事の目的を検討していくことが必要といえます。