書類を書く手の「震え」を見て、犯罪を見破った銀行員
前回の続きです。
デズモンドモリスは「自律神経信号」がもっとも信用できるとしています。これは人間がコントロールできない最たる部分だからです。ウソをつくと顔が赤くなったり、青くなったり、手が震えたりします。これはその人の心理を物語っているのです。もちろん緊張した場合でも、自律神経に出るので見極めが必要です。
刑事課長時代にこんな事例があります。
銀行の窓口に若い男性が新規で口座開設にきて、身分証明書として運転免許証を提示しました。窓口担当者が「口座開設申込書を記入してください」と申込書を手渡したところ、目の前で書きはじめました。しかし、なぜか書く手が震えています。また、顔が引きつり、こわばっているのです。
窓口担当者は最初、「緊張しているのかな?」と思ったそうです。でもあまりにも普段のお客様と違うので、直感が働き「もしかしたら何かやましいことをしようとしているのでは?」と思ったそうです。
それとなく男が提出した運転免許証をよく確認したところ、氏名の字体が微妙に不揃いです。裏から警察に通報して調べてもらったところ、偽造であることがわかりました。まさに自律神経信号の反応に気づいた結果、犯行を未然に防いだ事例でした。
自律神経信号は「無意識」のうちに出てしまう
またこれは、私の交番勤務時代の事例です。
ある晩、在所勤務していたところ、「侵入盗の被疑者が逃走中」という緊急無線を傍受し、バイクで現場に向かいました。現場の近くまで赴き、周囲を注視していると、たまたま路地から小走りに出てくる若い男を発見したのです。その男は路地から出たところにあるコンビニにそそくさと入りました。私は男がきたのが発生現場の方向であり、時間的にも近接していることから不審と認め、店の前で男が出てくるのを待っていました。暫くすると男がコンビニから出てきたので職務質問を開始しました。
「ちょっとよろしいですか?」
声をかけるとその瞬間、男の顔がこわばります。
「え、何ですか?」
「すぐ近所で事件がありまして事情を聞きたいのですが」
「あ、はい、何でしょう」
男は終始落ち着きがなく、ついさっきまで空調のあるコンビニの店内にいたにもかかわらず額には汗が流れ出ていました。
「身分証明書ってお持ちですか?」
「あー、ありますけど」
素直に財布から運転免許証を差し出しました。しかし、手がわずかに震えています。男は質問に素直に答えてはいましたが、顔は紅潮し、そわそわするなど通常の緊張とは違う極度の自律神経信号を出していたのです。
私は「この男に間違いない」とパトカーの応援要請を求め、警察署に任意同行しました。そのあと、この男は逃れられないと観念して事実を認め、被害住民の面通しにより緊急逮捕しました。
このように自律神経信号は無意識で出てしまうものなので、心理を読む際の大きなヒントになることがあります。