ソマリアの銀行や商人が「偽造紙幣」を受け入れる!?
前回の続きです。
最後に、機能する政府がまったく存在しないのは、この例では紙幣の価値に良い影響を与えていた。シリングの供給がおおよそ一定だったのは、増刷する政府がなかったからだ。これに対して、なまじいい加減に機能している政府は権力を保とうとして、しばしば通貨を乱発する(たとえばベラルーシのルーブルは1990年代に初めて発行され、バニーと呼ばれるようになった。紙幣に野うさぎの図柄が刷られているからだけでなく、著しく増殖しやすいからだ)。
内戦中のソマリアシリングの供給増は偽造によるものだけで、高品質な偽造紙幣も少なかった。偽造は特殊な才能、設備、材料を必要とするからだ。このため、ソマリアの商人たちも、銀行も高品質な偽造紙幣を受け入れることがあり、それが心惑わせる理屈を生んだ。当時のニュースはこう伝えている:「もともと名目的な価値しかない物の模造品は、何らかの価値を持つようだ」。(※1)銀行が偽造されたモノポリーのおもちゃのお金──ただのニセ札ではなく、ニセのニセ札──をすすんで受け取るようなものだ。
(※1)Ibid.
破れたインドルピーではお茶一杯も買えないのに・・・
でもこの文脈で何がニセものなんだろうか。破れたインドルピーは本物のお金なのに、お茶一杯も買えない。ソマリアシリング──もちろん偽造されたソマリアシリング──は、法貨と認める政府が存在しないため、本物のお金じゃない。なのにそれを使ってお茶が買える。ここで単純なことが難解になる:あるものを容易に、予想通りに財やサービスと交換できる場合、それはお金だ。できなければ、それはお金じゃない。
前者と後者の中間さえある。アフリカの両替商は、新しい紙幣には古い紙幣より良いレートを提示する。現在の財務長官の署名がある100ドル札は、ジョン・スノー(ブッシュ政権)やロバート・ルービン(クリントン政権)の署名がある100ドル札より高いレートになるのだ。ピン札は、汚れた古い紙幣より高いレートで交換される。そして100ドル札1枚は、20ドル札5枚よりも価値が高い。(※2)
(※2)Michael Phillips, “U.S. Money Isn’t As Sound as a Dollar,” Wall Street Journal, November 2, 2006.
アメリカでドルを使う人間にとっては筋の通らない話だけれど、アフリカで価値に差がつくのにもそれなりの理屈がある。『ウォールストリート・ジャーナル』の説明によると、「一部の両替商や銀行は、アメリカの高額紙幣が偽札ではないかと心配する。小額紙幣をわざわざ扱いたがらない者もいる。古い紙幣や汚損した紙幣を他の人に受け渡せないリスクを負いたくない者もいる。そして単に見た目が気にくわないという者もいる」。(※3)
(※3)Ibid.
お金によくあることとして、人々がどう行動するかが人々の行動に影響する。アフリカ各地の港をまわる国際客船の従業員たちは、支払いが古い紙幣ばかりだと雇用者に訴えたという──ロバート・ルービンの100ドル札ばかりで、ヘンリー・ポールソン(この支払をめぐる反発が起きた当時の財務長官)は少ないというのだ。
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