顧客に儲けが出ない限り、成功報酬はゼロ
収益確保の方法とも関係してくる話ですが、ヘッジファンドのもうひとつの特徴がファンド・マネージャーの「報酬体系」の違いです。
一般の投資信託というのは、運用会社が「信託報酬」という名目で、利益が出ても出なくても、純資産総額の0.5~3.5%程度の範囲で徴収する仕組みになっています。ファンド・マネージャーの報酬もこのなかから支払われます。
一方、ヘッジファンドのファンド・マネージャーの報酬体系は、「成功報酬」のなかから支払われるのが一般的です。成功報酬とは、一定期間内の「利益」に対して、10%から20%徴収されるのが普通です。当然ながら、そのヘッジファンドが利益を出していなければ、成功報酬は1円も発生しません。さらに、「ハイウォーターマーク方式」という独特の報酬体系があり、たとえば基準価額が1万円から2万円になり、その時点で成功報酬の支払いがあった場合、次の成功報酬は2万円を上回った利益に対してのみ支払われます。
つまり、2万円の時点で成功報酬が支払われて、その後、1万円にまで下落。再び1万8000円に基準価額を戻しても、次の成功報酬は2万円を基準にしているため、やはり1円も発生しません。要するに、顧客に儲けが出ない限り成功報酬は発生しないのです。
言い換えれば、ヘッジファンドのファンド・マネージャーは利益を出し続けなければ、自分の報酬は増えないということです。そのため、認められた方法のなかで、手段を選ばずに、何がなんでも利益を出すために必死でトレードをすることになります。ここにヘッジファンドの強みがあるといっていいかもしれません。
「投資家の利益を増やす」に注力するヘッジファンド
こうした報酬体系の違いは、成功報酬を採用していない一般の投資信託が、投資家の損益にかかわらず「純資産総額を増やすこと、すなわち募集額を増やすことに注力する」のに対して、ヘッジファンドは「純資産総額だけではなく、投資家の利益を増やすことに注力する」というファンド運用に対する考え方の違いに現れてきます。
運用成績の好調なファンドには資金が集まりやすいものですが、ヘッジファンドの場合、資金が増えすぎて十分な運用成績が上げられないと判断した場合には、新規資金の受け入れを停止したり、ときには投資家に資金の一部を返還する場合さえあるのです。
また、ヘッジファンドでは、ファンド・マネージャーなどのスタッフも自分自身の私的な資金を拠出するのが海外では当たり前になっています。そうした意味でも、サラリーマン・ファンドマネージャーが多い一般の投資信託と、ヘッジファンドのファンド・マネージャーの運用に対する真剣度は決定的に異なります。