相続税率が上がって以降、賃貸併用住宅が増えている
相続税の税率が上がってから、賃貸併用住宅(住居を兼ねた賃貸物件)が増えています。東京都内近郊は地価が高いので、住宅部分のローン返済を、賃貸住宅の収入からも支払える賃貸併用住宅は、お得感があります。また、賃貸併用住宅にすると、「借り上げ」という、管理会社などが賃借人となり物件を転貸(てんたい)してくれる契約を交わすこともできます。そのため、賃貸経営の経験がなくても賃貸物件を稼動させることができ、賃貸経営を安易に考えてしまうこともあるようです。
確かに、賃貸併用住宅にはメリットが多いのですが、それなりのコストをかけて建築するので、デメリットもしっかり把握したうえで、決断しましょう。
賃貸併用住宅のデメリットを知らないで起こってしまった、ある事例をご紹介します。
初めて賃貸併用住宅を建てた家主さんから、生活マナーが悪い入居者の退去についてご相談を受けました。マナーの悪さは、「ゴミ出しの分別をまったくしない」「夜中の騒音がひどい」「共用部分にタバコの吸殻をポイ捨てする」などです。
「賃貸併用住宅=集合住宅」の意識が必要
実際に物件へ行ってみると、確かに共用部分にはタバコの吸殻が捨てられ、ゴミ置き場には回収されていないゴミが残っていました。さらに、せっかくの築浅物件なのに、管理が行き届いていません。そのせいか、好立地にも関わらず、6戸のうち2戸も空室の状態です。これでは物件の価値が、一気に下がってしまいます。
ところが、物件は借り上げなので、家主さんは契約の当事者ではありません。つまり、入居者の情報がまったくなく、知ることもできない状況なのです。
しかし、一番の問題は、家主さんが「自分の家に他人がいる」と思っていることでした。
賃貸併用住宅に住む心がまえとして、「集合住宅に住んでいる」という意識をもたないと、ストレスを抱えることになります。自分の家であることに間違いはないのですが、その思いが強すぎると、入居者のことが気になってストレスを抱えてしまいます。
この家主さんの物件は、借り上げなので入居者の方と直接関われず、自分ではどうにもできない状況が、夜も眠れない不安を引き起こしていたようです。「この状態が続くくらいなら、借り上げをやめて自分で賃貸経営しよう」と思われるほどでした。
さて、例のマナーの悪い入居者は、家賃の滞納までしています。そこでこの入居者に対しては、滞納で裁判手続きに着手し、スムーズに退去してもらうことができました。
また、賃貸経営2年目の家賃見直しのタイミングで、借り上げ業者が「家賃の減額」の申し入れをしてきました。「家賃が高くて空室が埋まらない」という理由からです。
自己管理の思いをもっていた家主さんは、「それならば」ということで、借り上げ契約を解除。中途解約の条件が、さほど厳しくなかったのが幸いでした。
その後の賃貸経営は、掃除と厳しい入居者審査の徹底で、いい入居者を確保。家主さんの「自分の家に他人がいる」という思いも変わって、現在は満室経営となりました。