今回は、賃貸併用住宅を建築するにあたり、事前に把握しておきたいデメリットと、具体的なトラブル事例を見ていきます。※本連載では、徹底した現場主義で多くの賃貸トラブルを解決へと導いてきた太田垣章子氏の著書、『2000人の大家さんを救った司法書士が教える 賃貸トラブルを防ぐ・解決する安心ガイド』(日本実業出版社)より一部を抜粋し、「空室」「滞納」など様々な賃貸トラブルの予防策と解決法についてわかりやすく解説します。

相続税率が上がって以降、賃貸併用住宅が増えている

相続税の税率が上がってから、賃貸併用住宅(住居を兼ねた賃貸物件)が増えています。東京都内近郊は地価が高いので、住宅部分のローン返済を、賃貸住宅の収入からも支払える賃貸併用住宅は、お得感があります。また、賃貸併用住宅にすると、「借り上げ」という、管理会社などが賃借人となり物件を転貸(てんたい)してくれる契約を交わすこともできます。そのため、賃貸経営の経験がなくても賃貸物件を稼動させることができ、賃貸経営を安易に考えてしまうこともあるようです。

 

確かに、賃貸併用住宅にはメリットが多いのですが、それなりのコストをかけて建築するので、デメリットもしっかり把握したうえで、決断しましょう

 

賃貸併用住宅のデメリットを知らないで起こってしまった、ある事例をご紹介します。

 

初めて賃貸併用住宅を建てた家主さんから、生活マナーが悪い入居者の退去についてご相談を受けました。マナーの悪さは、「ゴミ出しの分別をまったくしない」「夜中の騒音がひどい」「共用部分にタバコの吸殻をポイ捨てする」などです。

「賃貸併用住宅=集合住宅」の意識が必要

実際に物件へ行ってみると、確かに共用部分にはタバコの吸殻が捨てられ、ゴミ置き場には回収されていないゴミが残っていました。さらに、せっかくの築浅物件なのに、管理が行き届いていません。そのせいか、好立地にも関わらず、6戸のうち2戸も空室の状態です。これでは物件の価値が、一気に下がってしまいます。

 

ところが、物件は借り上げなので、家主さんは契約の当事者ではありません。つまり、入居者の情報がまったくなく、知ることもできない状況なのです。

 

しかし、一番の問題は、家主さんが「自分の家に他人がいる」と思っていることでした。

 

賃貸併用住宅に住む心がまえとして、「集合住宅に住んでいる」という意識をもたないと、ストレスを抱えることになります。自分の家であることに間違いはないのですが、その思いが強すぎると、入居者のことが気になってストレスを抱えてしまいます。

 

この家主さんの物件は、借り上げなので入居者の方と直接関われず、自分ではどうにもできない状況が、夜も眠れない不安を引き起こしていたようです。「この状態が続くくらいなら、借り上げをやめて自分で賃貸経営しよう」と思われるほどでした。

 

さて、例のマナーの悪い入居者は、家賃の滞納までしています。そこでこの入居者に対しては、滞納で裁判手続きに着手し、スムーズに退去してもらうことができました。

 

また、賃貸経営2年目の家賃見直しのタイミングで、借り上げ業者が「家賃の減額」の申し入れをしてきました。「家賃が高くて空室が埋まらない」という理由からです。

 

自己管理の思いをもっていた家主さんは、「それならば」ということで、借り上げ契約を解除。中途解約の条件が、さほど厳しくなかったのが幸いでした。

 

その後の賃貸経営は、掃除と厳しい入居者審査の徹底で、いい入居者を確保。家主さんの「自分の家に他人がいる」という思いも変わって、現在は満室経営となりました。

2000人の大家さんを救った司法書士が教える 賃貸トラブルを防ぐ・解決する安心ガイド

2000人の大家さんを救った司法書士が教える 賃貸トラブルを防ぐ・解決する安心ガイド

太田垣 章子

日本実業出版社

アパート・マンション経営の多くのトラブルは「知識」さえあれば防ぐことができる! 15年間で2000件以上の問題を解決に導いた、現場を知り尽くした著者だからこそ書ける事例を紹介するとともに、賃貸トラブルの予防策・解決…

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