今回は、収益不動産を活用した相続対策で「デッドクロス」になった場合の対処法を説明します。※本連載は、豊田剛士氏の著書、『「知らなかった」ではすまされない 地主・大家の相続対策の本質』(現代書林)の中から一部を抜粋し、相続発生後の流れから具体的な相続対策まで、相続対策の本質を詳しく紹介します。

相続税の納税資金の確保どころか、CFがマイナスに

第3章(※書籍参照)「税金の計算上の所得は黒字でも、キャッシュフローでは赤字になる現象~デッドクロス〜」で説明したように、収益不動産は長期保有をすればするほど減価償却費が減少し、借入金の支払いの元金が増えることで税引き後のキャッシュフローも減少していくという特徴があります。私が相続対策を行っているお客様の多くも、この現象に気づかない、もしくは知ってはいたけれど対策をしていないという方が多いです。デッドクロスが起こることで税引き後のキャッシュフローがマイナスになっているという方もいますので、相続税の納税資金の確保どころか、納税資金を減少させているという方も多いです。では、このデッドクロスにはどのような対策を取ればいいでしょうか。

 

デッドクロス対策には次の選択肢が考えられます。

 

①当初の自己資金を多くする

②当初の返済期間を長くする

③繰り上げ返済をする

④返済期間を延長する

⑤売却する

⑥減価償却費が多くとれる資産を追加する

 

などです。

 

では、このうち手持ちの収益不動産の保有を前提にした場合、使える対策はどれなのか?一緒に考えてみましょう。

別の金融機関に借換えをして返済期間を延長

①、②はすでに保有している場合には使えません。③の繰り上げ返済をすると相続税の納税資金を使ってしまうことになるので納税資金の対策としては難しいです。保有を前提として対策としているので⑤は考慮しないとして、⑥も対象不動産単体の対策ではないのでここでは考慮しないものとします。

 

残るは④です。これなら対象不動産単体ででき、保有期間中でもできる対策です。返済期間を延長するといっても現在借入れている金融機関に返済期間の延長を申し込むと嫌がられますし、新しく別の融資を受ける際にも影響が出かねません。そのため、別の金融機関に借換えをして返済期間を延長します。別の金融機関で借換えを検討すると、既存の金融機関も返済期間の延長に快く承諾してくれるケースもありますので、そのときの状況次第で最適な金融機関を選択します。

 

返済期間を延長すると、金利がかかる期間がせっかく減ってきたのにまた金利がかかる期間が増えると思うでしょう。しかし、ここまで読み進めていただいた方は思い出してください。金利は所得税の計算上経費に算入することができるのです。また、借入れは相続税の計算をするうえの相続財産の計算ではマイナスの財産となり、相続税の圧縮効果もあります。

 

たとえば、借入額1億円、金利2%、返済期間30年で借入れた融資の返済額は年間約444万円、25年の残債は約2100万円となります。25年目から30年目にかかる金利は約109万円です。この約2100万円の残債を返済期間15年で借換えた場合、年間の支払額は約163万円となり、15年間で支払う金利は約334万円となります。借換え前の支払金利が約109万円なので、約230万円金利が増えたことになります。ただし、この金利は所得税の計算上経費に算入できます。年間の支払額が約444万円から約163万円になりますので約281万円の現金を捻出することができ、相続発生時に借入れが残っていれば相続税の圧縮をすることもできるのです。

 

このように損益計算書(P/L)、キャッシュフロー計算、貸借対照表(B/S)の関係がわかっていると、感覚的に「借入れ=悪」ではなく、借入れを上手に使うことで相続対策を行うこともできるのです。

地主・大家の相続対策の本質

地主・大家の相続対策の本質

豊田 剛士

現代書林

年間100件を超える相続相談に単身で応え、数十億単位の資産の相続にも最適な対策を提供し続けている著者が明かす、「全体」を見据えた一族繁栄のための相続対策の「本質」とは? 「遺言作成」、「生命保険」、「賃貸アパート建…

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