前回は、年間売上10億円の中小企業の、優等生的な「損益計算書」の例を取り上げました。今回は、P/L至上主義が招くリスクについて詳しく説明します。

売上拡大のために過度なノルマを課せば、従業員は反発

前回の続きである。

 

この事例では業種業態を考慮せず私の経験則に基づく一般論として解説したが、中小企業経営全般に当てはめられる汎用性はある。このP/Lの各数値を目標に経営の舵取りをすれば、経営上の大きな間違いは犯さないと断言していい。

 

さらに、このP/Lは足したり引いたりするだけなので単純明快。だから財務に弱い経営者は、このP/Lを中心に経営を考えてしまうのだ。しかし、ここに落とし穴がある。P/L至上主義は行き過ぎた「売上拡大・原価経費縮小戦術」に陥るリスクがあり、経営危機を迎えやすいからである。具体的なリスクは次の二つ。

 

①売上拡大思考:売上よ上がれ、天まで上がれ

②経費削減神話:経費よ下がれ、限りなくゼロになれ

 

売上は利益の源泉なので、売上高を伸ばす努力は不可欠だ。しかし売上拡大にもやり方がある。とくに大切なポイントは人心掌握、「勘定」と「感情」のバランスにある。

 

経営者自らが営業の第一線に立つ前向きな姿勢も必要だが、現場を駆けずり回って売上を伸ばすのは営業スタッフなのだから、そのスタッフに対して過度なノルマを押しつけると、「こんな営業やってられるか!」と反発して思うように働いてくれなくなる。経営者が売上の「勘定」を無理やり合わせようとすると、従業員の「感情」と合わなくなるからだ。

 

さらに売上拡大思考が強まると、営業先への強引な押し売り、あるいは利益を度外視した安売り合戦に走る可能性もある。前者は営業先との感情が合わなくなり、後者は利益率の低下によって赤字に転落しかねない。

 

売上拡大を目指す場合は経営者自らが知恵を絞り、「企て(事業計画)」を策定して実行する必要がある。その事業計画作りの努力をせず、「もっと走れ」「もっと売ってこい」の一点張りでは人はついてこない。

行き過ぎた値下げ要求をすれば、仕入先は愛想をつかす

もう一つの経費削減神話は、第9回で説明した通りだ。企業を発展させるのは「根肥」である経費だからこそ、なんでもかんでも無闇に削減すればいいというわけではない。仕入先に過度の値下げを要求すれば、いずれ愛想をつかされて取引はなくなる。

 

仕入先が複数の取引先に同じ商品を卸している場合、納得できる料金で購入してくれる取引先に優先的に納入したいと思うのは当然の人情。在庫が少なくなった場合、値下げ要求のきつい取引先には「もう売り切れました」と納入を見送るだろう。

 

このように、経営者が経費削減の「勘定」合わせに躍起になるほど、仕入先の「感情」が合わなくなるのだ。最終的に割を食うのは、自分の「勘定」だけを優先した経営者自身である。

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    本連載は、2017年3月16日刊行の書籍『どんな不況もチャンスに変える 黒字経営9の鉄則』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には一部対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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    石原 豊

    幻冬舎メディアコンサルティング

    日本の企業の約7割は赤字という現実があります。 現在の日本企業の回復基調はあくまでも一時的なものであり、ほとんどの中小企業は根本的な解決には至っていません。また、人手不足や消費の冷え込みといった課題があるように…

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