繰上返済するより、高い利回りを得られるなら・・・
大家業をスタートした後こそ、努力してお金を貯めていくことの大切さについて、この連載で何度もお伝えさせていただきました。繰上返済は、金利上昇の対応につながり、借入のない部屋を増やす近道です。
ただ、「繰上返済の大切さは分かるけれど、手元にあるお金を運用した方が良いのではないか?」ということもよく耳にします。
結論から言えば、繰上返済するよりも高い利回りを得られるのであれば、無理にしなくても良いと考えています。
仮に、2%、35年期間で1990万円を借りた場合、毎月の返済額は6万5921円です(本書籍97ページ参照)。ただ、その際はローンのないマンションにするにはどのくらいの期間が必要になるのかを考えたので、毎月の返済額は変えない「期間短縮型」を前提に見ましたが、ここでは手取りに焦点を当てるので「返済額軽減型」で見てみます。
返済額軽減型とは、完済までの期間を変えずに、毎月の返済額を下げるという繰上返済の方法です。つまり、毎月の手取りが増えるわけです。この返済額軽減型で毎年100万円を繰上返済した場合、返済額はどのくらい下がるのか?
繰上返済するタイミングによっても変わりますが、例えば1年後に行った場合、答えは「毎月約3380円」です。年間にすると手取りが「4万560円」増えることになります。そう考えると自己資金100万円を使って、年間4万560円を利息として得るという考え方ができるので、利回りは「40560÷1000000=約4%」ということになります。
借入金額の目安や、保有したい部屋数の目標を忘れずに
では、この100万円を頭金にして、同じようなマンションを購入したとしたらどうでしょうか? 前提条件は同じで、家賃が9万円、管理費・修繕積立金で1万2000円、借入金額が2000万円-100万円の1900万円とします。
このときの毎月の返済額は、6万2939円になるので、手取りは「90000 -12000 -62939=15061円」です。1年にすると18万732円。固定資産税を考慮して、おおよそ14万円くらいは残ります。自己資金100万円に対して手取りは14万円なので、利回りは「140000÷1000000=14%」となり、繰上返済の利回り4%より高利回りになります。
資産運用の効率という点にスポットを当てれば、追加の融資で新たな部屋を購入する再投資の方が、借りている融資の金額は増えますが、リターンは大きくなるということです。この計算を踏まえて、皆さまそれぞれどう考えるかは、気持ちや、心構えに関わってくるので、正解はないでしょう。
積極的に借入の金額を増やしてリターンの多さを追求したいという気持ちが強いのであれば再投資が良いと思います。逆に、効率が良いのは分かるけれど、借入を増やし過ぎるのは気持ちの面で怖さがあるというのであれば、堅実な繰上返済を選ぶ方が良いと思います。
くれぐれも、「何のために大家業を始めるのか」という最初の目的を見失わず、自分が決めた借入のバランスを崩さないように大家業を進めてください。
私の場合は、ある程度慎重な姿勢で取り組む後者の気持ちが少し強いので、資産全体の半分くらいが借入というバランスが一番心地よいと考えています。
金融機関には、繰上返済をして手元資金が少ない人よりも、借入残高があっても手元資金が多くある人の方を評価するという姿勢があります。金融機関からすれば、繰上返済をされてしまうと、長期的に当てにしていた返済からの利息収入が減ってしまうからです。
また、万が一、返済が難しい状況になってしまった場合、金融機関からすれば、不動産の売却で残債を回収するよりも、貸した相手の手元にある預貯金から完済してもらう方が、手間がかからず対処もしやすいのです。
分かりやすい例を挙げれば、仮に2000万円の預貯金がある人に対して、2000万円の融資をするのは、金融機関からすれば、限りなくリスクが低いので、とても貸しやすいというイメージです。
繰上返済と再投資はどちらが良いというわけではなく、皆さまの目的や気持ちの部分とのつながりが強いので、自分の気持ちが受け止められる借入金額の目安や保有したい部屋数の目標を見失わないことが大切です。