多くの買収を実施してきた「ソフトバンク」
●ソフトバンク
日本企業でM&Aを積極的にやっている企業といえば、ソフトバンクを想像される方が多いと思います。会社名から想像される事業は、通信キャリアやプロ野球チームですが、創業時の事業としてソフトウェアの卸売りをやっていたこともよく知られています。ソフトバンクは、孫正義氏をグループ代表とし、1994年の株式公開で得た資金を基に多くのM&Aを実施しコングロマリットな企業へと成長を遂げていきました。まずはソフトバンクのM&Aの歴史を見てみましょう。
ソフトバンク買収の歴史
※会社HP沿革より抜粋
1994年 Ziff Communications Company(アメリカ)
1996年 Ziff-Davis Publishing Company(アメリカ)
The News Corporation Limited(オーストラリア)
1998年 E*TRADE Group, Inc.(アメリカ)
2000年 日本債券信用銀行 ※後のあおぞら銀行
2004年 日本テレコム
2005年 福岡ダイエーホークス
2006年 ボーダフォン(イギリス)
2008年 Oak Pacific Interactive(中国)
アリババ
2010年 Ustream, Inc.(アメリカ)
2011年 InMobi Pte. Ltd.(シンガポール)
Bhartiグループ(インド)
2012年 エイベックス・グループ・ホールディングス
Sprint Nextel Corporation(アメリカ)
PayPal Pte. Ltd.(アメリカ)
2013年 イー・アクセス
ガンホー・オンライン・エンターテイメント
ウィルコム
Supercell Oy(フィンランド)
2014年 Brightstar Corp.(アメリカ)
Legendary Entertainment(アメリカ)
DramaFever Corp.(アメリカ)
PT Tokopedia(インドネシア)
ANI Technologies Pvt. Ltd.(インド)
Snapdeal(インド)
GrabTaxi Holdings Pte. Ltd.(シンガポール)
Locon Solutions Pvt. Ltd.(インド)
2015年 Travice Inc.(中国)
Forward Ventures, LLC(韓国)
Social Finance, Inc.(アメリカ)
2016年 ARM Holdings plc(イギリス)
2017年 ワンウェブ(アメリカ)
上記のように、事業は、金融・通信・エンタメ・ハイテクなど、地域もアメリカ・欧州・アジアと幅広く手を伸ばしており、日本企業でM&Aと言えばソフトバンクの名前が真っ先に挙がるのも納得できます。
ソフトバンクはどうやって「資金調達」したか?
さて、これだけ多くの企業とのM&Aを実施するためには、相当な資金が必要になります。今となっては巨大企業のソフトバンクですが、これらの企業をM&Aするためにどのように相当の資金を用意したのでしょうか。
LBO(レバレッジド・バイ・アウト)
その方法の1つが「LBO(レバレッジド・バイ・アウト)」です。買収先が持つ資産と買収後に稼ぎ出すキャッシュを担保として、買収資金を金融機関から調達する方法です。つまり、買収後の資産とキャッシュを考慮することで、少ない自己資本で金融機関から資金調達することができ、さらに、その借入額は買収後に稼ぎ出すキャッシュを基に返済計画を立てます。
しかし、この方法は、買収した企業の業績がその後悪化することによって債務不履行に陥るデメリットをはらむ、諸刃の剣とも言える手法です。経営事項の中でも、より先見の明が問われるため、判断を誤れば会社そのものが倒れてしまう危険性があります。実際、これまでのソフトバンクの買収計画の発表時に、財務状況の悪化を懸念し、ソフトバンクの株が売られることもありました。しかし、この手法を有効活用しソフトバンクは巨大企業へと成長していきました。
ソフトバンク・ビジョン・ファンド
さらに、ソフトバンクは2017年に大きな一手を打ち出しました。それが、「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」通称「10兆円ファンド」と呼ばれる投資ファンドの設立です。サウジアラビア政府などと合同で、IT関連のベンチャー企業へ投資するこの巨大プロジェクトは、シリコンバレーが牽引してきたIT関連業界の流れも変える力を持つかもしれません。凄まじいスピードで技術革新を続けるIT業界の様子を、孫正義氏は「真のゴールドラッシュが始まる」と評しています。
孫正義氏が常々発言しているM&Aの考え方に「同志的結合」というものがあります。「利益重視の金銭的結合ではなく、目指すビジョンを共有できる企業との志での結合」という意味です。結合はしながらもお互いのやり方を大切にしていくので、資本提携も20~40%と緩やかなものもあります。一つの企業をトップにして、買収される企業を従属させる中央集権的経営ではなく、戦略的シナジーグループがどんどん分散・分権して、お互いに自律している経営を目指しています。
孫正義氏は、ここからの30年で、M&Aを通して作り上げた組織構造を5,000社規模にまで拡大し、世界に強い影響を与える集団を作り上げる計画と語っています。(2010年、ソフトバンクの「30年ビジョン」)
ここまで、ソフトバンクのM&Aの話になりましたが、日本企業で積極的なM&Aを実施している企業は他にもあり、それらの企業にも触れてみたいと思います。
2017年11月時点で56件のM&Aを行った「日本電産」
●日本電産
日本電産といえば、モーターを中心とする電気製品メーカーです。精密小型モーターの分野に関しては世界No.1との呼び声も高く、情報通信機器、OA機器分野にとどまらず、家電製品、自動車、産業機器、環境エネルギーなど幅広い分野に製品を提供しています。優れた製品製造技術を持つ日本電産ですが、積極的にM&Aも実施しています。
日本電産のM&A
創業は1973年ですが、1984年という創業10年に満たない早い段階からM&Aを繰り返しており、2017年11月の時点でその数は56件に上ります。日本電産がこれだけ多くのM&Aを積み上げてきた理由は2つあります。
1つ目は、重要2事業として位置付けている車載と家電・産業・商業のビジネスにおいて、これらの市場に進出するには従来持っていなかった技術、製品、商流を獲得することが必須であり、あらゆるモータにおいてグルーバルなネットワークを形成することが不可欠であること、
2つ目は、従来PCを中心としたIT市場への依存度が高い事業ポートフォリオを是正し、多様化を通じて経営リスクを分散するためとしています。
2000年までは国内企業が買収相手の主流でしたが、それ以降は積極的に海外とのクロスボーダーM&Aを積み上げており、2017年11月現在で国内が25件、海外が31件となっています。買収先の業種は電気製品メーカーがほとんどで、地域別にみるとヨーロッパが最も多く(13件)、北米(10件)、アジア(8件)がそれに続きます。
日本電産のM&A3条件
会長の永守重信氏は今年4月、独家電部品大手セコップグループを買収した際に、M&A戦略の軸として「価格」、「経営への関与」、「相乗効果」の3つをあげました。
1つ目の「価格」は、買収金額のことです。将来どれだけ利益が得られるかというところまで計算に入れて買収金額が高くなっていると、その期待通りにいかなかった時に損失を計上します。永守氏は「高値づかみしないこと」が重要と語りました。
2つ目の「経営への関与」は、買収元の日本電産が、相手会社を買収後に諸々の改革を行うことです。PMI(買収後の統合作業)も含まれます。社員教育の不足・コスト管理の甘さなどの要素を日本電産が率先して改革することで、本来持っている魅力が開花し、事業はうまくいきます。
3つ目の「相乗効果」は、シナジーとよく表され、日本電産が持つリソースを相手企業も求めており、相手企業の持つリソースを日本電産が欲している状況で、この3つが日本電産の理想的なM&Aの条件です。
●イオン、セブン&アイ
近年、「また近くのスーパーがイオンになった」などの声が多く聞かれるようになりました。「イオンの他店舗買収により、付近の商店街が姿を消す」という記事も頻繁にメディアで見るようになるなど、イオンの積極買収の勢いは止まりません。イオンが行ったM&Aは合計で300社を超えます。中には、同一業態のスーパーマーケットであるダイエー、マルエツ、カスミ、いなげやの他、業態が違うミニストップ、まいばすけっとなどの店舗展開をする企業も含まれます。
イオンと並びもう一つの流通業界大手、セブン&アイホールディングスの買収先はロフト、タワーレコードやそごう・西武、ニッセンなどの企業名が並びます。現在、この流通業界はこの大手2社を中心に流通業界の再編が行われています。消費者の動向に強く左右されやすく、人口の減少傾向にある小売業界において、継続的に発展を続けるのは困難を極めます。
また、少子高齢化に関連し、より手軽に行けるコンビニエンスストアが台頭しているなか、デパート・スーパーマーケットの地位が下がってきているなどの社会的変化も存在します。その中で生き残りをしたい企業にイオンとセブン&アイが目をつけ、買収を進めていく流れが今後活発化していくでしょう。2014年にイオンがM&Aを行い、再建を行ったダイエーがその最たる例といえるでしょう。