市場のシェア拡大・バリューアップを目的とした戦略
投資ファンドで行われるM&Aの手法としてロールアップ戦略というものがあります。ロールアップ戦略とは、その名の通り囲い込みという意味で、同じ業種の会社を多く買収することで、市場のシェアを拡大しバリューアップさせていく戦略です。ロールアップ戦略の出口としてIPOが使われることもあります。
有名な事例が、ゴールドマンサックスが手がけたゴルフ場ビジネスのアコーディア・ゴルフ、PEファンドのローンスターが手がけたPGMホールディングスです。どちらも地方のゴルフ場をロールアップし、IPOをしています。詳細な投資リターンは調べられてないですが、純資産と公開価格を見るに、めちゃくちゃ儲かってそうです。
ロールアップIPO-GMOペイメントゲートウェイのケース
IT系の会社にもそういう事例ないかなと探していて見つけたのが、GMOペイメントゲートウェイの事例です。決済系の会社・事業を3つロールアップして上場を果たしました。下記が沿革になります。
カードコマースサービス(現GMO-PG)沿革
2002年10月、GMOグループがペイメント・ワン株式を取得比率40.62%まで取得し、グループ企業とした。
2004年7月26日、カードコマースサービスをこの時親会社だったエムティーアイが、カードコマースサービスを現物出資でCSSホールディングを設立。わずか二日後に、GMOがエムティーアイからカードコマースサービスの買収を発表。
2004年9月14日、GMOがカードコマースサービスの親会社CSSホールディングを株式交換でエムティーアイから全株取得。
2004年9月30日、カードコマースサービスがアスナルの決済事業を4000万円で譲り受け。同日4000万円を一括償却し特別損失に計上。
2004年10月1日、カードコマースサービス新決算年度開始。
2004年11月30日 カードコマースサービスが、ペイメント・ワンからクレジットカード決済事業の営業権を2.75億円で全部譲受。同日ペイメント・ワン事業を特別損失で2.7億一括償却。
2005年1月、CSSホールディングをGMOが吸収合併することに伴い、カードコマースサービスの親会社がGMOに移動。
2005年2月、カードコマースサービスの商号をGMOペイメントゲートウェイに変更。
2005年4月、東証マザーズにGMOペイメントゲートウェイ上場。
買収前から「ロールアップIPO」を画策していたGMO
ロールアップからIPOまでの考察
2004年にGMOがカードコマースサービスを買収してから、約半年後にマザーズ上場をしています。その半年間の間に、ペイメントワン・アスナルの決済事業を買収しているため、カードコマースサービスを買収する前からロールアップIPOを画策していたのだと考えられます。ちなみにすでに自社のグループであったペイメント・ワンの事業をあえて、決算をまたいだ第一四半期に買収しているのも、増収感を見せて公開価格を上げる手段だったのかもしれません。
また、ロールアップIPOした3社も上場時期が近いというのが、印象的です。最近耳にするのだと、IPOの直前期は買収しないでねと言われますが、2005~2006年はそういう時期ではなかったのかもしれませんね。
蛇足ついでに2006年までできた「のれん」の一括償却
アスナル・ペイメント・ワンの営業権を一括償却しているのも元々会計をやっていた身としても感慨深いです。実は日本の会計基準では2006年から、のれんを20年以内に均等額を「営業費用」として償却させることになっています。
それまでは今回のGMOペイメントゲートウェイのように、のれんの発生年度に一括で償却することができました。このメリットは一括して巨額な費用を計上した場合に、特別損失という区分で損益計算上表示できるため、営業費用として処理しなくてよく、営業利益を良く見せることができるというメリットがありました。買収先の売上や利益も合算できるので、業績をよりよく見せやすいのです。このスキームは、一時期の楽天が有名ですね。
ライター:及川厚博(M&Aクラウド代表取締役COO)
東洋大学在学中、教育系SNSを運営するMacropus株式会社を立ち上げる。その後facebookページの作成事業、インドネシアを中心としたオフショア受託開発事業を展開し、4年で経常利益数千万円まで成長させ、同業他社にバイアウト。学生時代は公認会計士を目指し、日商簿記検定1級取得。M&Aクラウドではアドバイザリーとしてもメディア事業のM&Aを3件手がけた。