今回は、金正男殺害事件が起きた理由を取り上げます。※本連載は、元外務省主任分析官として対ロシア外交の最前線で活躍し、現在は作家として執筆活動やラジオ出演、講演活動を行っている佐藤優氏の著書『佐藤優の地政学リスク講座 一触即発の世界』(時事通信出版局)の中から一部を抜粋し、緊張が高まる国際情勢分析をご紹介します。※本連載は、2018年1月22日刊行の書籍『佐藤優の地政学リスク講座 一触即発の世界』から抜粋したものです。

金正男暗殺の引き金はトランプ政権誕生だった

では、金正男殺害はどうして起きたのか。確かに、亡命政府の樹立の動きはあった。しかし、それが理由ならもっと早く金正男を殺しているはずです。脱北者が支援する亡命政府なんかは実のところ大した脅威ではない。

 

私は、このポイントは、実はトランプ政権の出現だと考えています。2017年1月1日に金正恩が演説で、「近く我々はアメリカまで到達する大陸間弾道ミサイルの打ち上げ実験を行う」と言った。その翌日、トランプがツイッターでこう言ったんです。「それはできない」と。

 

「それはできない」って具体的にはどういうことですか。

 

北朝鮮が弾道ミサイル実験や核実験ができなくなる方法にはどういうものがあるか。

 

一つは、北朝鮮のミサイルと核兵器をアメリカが破壊することです。

 

ところが、北朝鮮は今、弾道ミサイルも核兵器も地下で造っています。残念ながら、現在の人工衛星の偵察能力では、地下にある工場で何が造られているかを見ることはできない。そうなると、地下にあるミサイルや原爆を吹っ飛ばすためにはバンカーバスター(地中まで貫通して爆発する爆弾)を使うしかないんだけども、そのためには、どこにあるかをピンポイントで押さえるしかない。場所を特定するには、ヒューミント(人によるインテリジェンス)で、もっと平たく言うと、スパイを北朝鮮に送り込んでどこにミサイルや核兵器があるかを探らないといけない。率直に言って現時点において、アメリカにその任務を遂行するだけの能力はないと思います。

「首つり作戦」

そうしたら、2番目のシナリオがあるわけ。2017年3月から4月終わりまで春秋恒例の米韓合同軍事演習をやっていたでしょう。

 

過去の合同軍事演習で「首狩り作戦」というのをやっている。これ何だと思いますか。平壌の郊外に米韓合同軍が強襲上陸する。そして、平壌まで行って金正恩を殺すという訓練です。これはアメリカの能力で十分にできる。ウサマ・ビン・ラディンだって殺していますから。

 

ちなみに、必要に応じ、インテリジェンス機関の接触も行われているはずです。国連を通じても北朝鮮外務省とアメリカ国務省(日本の外務省に当たる)も連絡を取っている。

 

弾道ミサイルや核兵器を造らせないことについて、CIAが仮に北朝鮮のインテリジェンスの誰かに「アメリカまで届くミサイルを造ったりしたら、『首狩り作戦』になるかもしれないよ」と言ったとする。「首狩り作戦」した後に、あり得るシナリオは、同じ白頭山の血筋を引く者をトップに戴くこと。それで、南スーダンみたいな傀儡(かいらい)政権にすればいいわけです。

★南スーダン:2011年7月9日にスーダン共和国の南部10州が独立し、南スーダン共和国が成立。

 

そのときに、金正男は魅力的です。

 

こういった補助線を引いて考えていくと、北朝鮮が慌てて金正男殺害計画を立てたという理由が見えてくるわけです。

佐藤優の地政学リスク講座 一触即発の世界

佐藤優の地政学リスク講座 一触即発の世界

佐藤優

時事通信出版局

一触即発の世界はいつまで続くのか。 佐藤優が北朝鮮問題に切り込んだ本書の内容をQ&Aで紹介します。(本書の内容を構成しました。「…」部分は本書で) Q 米朝開戦の可能性は⁉︎ 佐藤優 危機は高まってきている。5軒先でボ…

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