▲トップへ戻る
亡命政府樹立の動きは無関係!? 金正男殺害事件が起きた理由

今回は、金正男殺害事件が起きた理由を取り上げます。※本連載は、元外務省主任分析官として対ロシア外交の最前線で活躍し、現在は作家として執筆活動やラジオ出演、講演活動を行っている佐藤優氏の著書『佐藤優の地政学リスク講座 一触即発の世界』(時事通信出版局)の中から一部を抜粋し、緊張が高まる国際情勢分析をご紹介します。※本連載は、2018年1月22日刊行の書籍『佐藤優の地政学リスク講座 一触即発の世界』から抜粋したものです。

金正男暗殺の引き金はトランプ政権誕生だった

では、金正男殺害はどうして起きたのか。確かに、亡命政府の樹立の動きはあった。しかし、それが理由ならもっと早く金正男を殺しているはずです。脱北者が支援する亡命政府なんかは実のところ大した脅威ではない。

 

私は、このポイントは、実はトランプ政権の出現だと考えています。2017年1月1日に金正恩が演説で、「近く我々はアメリカまで到達する大陸間弾道ミサイルの打ち上げ実験を行う」と言った。その翌日、トランプがツイッターでこう言ったんです。「それはできない」と。

 

「それはできない」って具体的にはどういうことですか。

 

北朝鮮が弾道ミサイル実験や核実験ができなくなる方法にはどういうものがあるか。

 

一つは、北朝鮮のミサイルと核兵器をアメリカが破壊することです。

 

ところが、北朝鮮は今、弾道ミサイルも核兵器も地下で造っています。残念ながら、現在の人工衛星の偵察能力では、地下にある工場で何が造られているかを見ることはできない。そうなると、地下にあるミサイルや原爆を吹っ飛ばすためにはバンカーバスター(地中まで貫通して爆発する爆弾)を使うしかないんだけども、そのためには、どこにあるかをピンポイントで押さえるしかない。場所を特定するには、ヒューミント(人によるインテリジェンス)で、もっと平たく言うと、スパイを北朝鮮に送り込んでどこにミサイルや核兵器があるかを探らないといけない。率直に言って現時点において、アメリカにその任務を遂行するだけの能力はないと思います。

「首つり作戦」

そうしたら、2番目のシナリオがあるわけ。2017年3月から4月終わりまで春秋恒例の米韓合同軍事演習をやっていたでしょう。

 

過去の合同軍事演習で「首狩り作戦」というのをやっている。これ何だと思いますか。平壌の郊外に米韓合同軍が強襲上陸する。そして、平壌まで行って金正恩を殺すという訓練です。これはアメリカの能力で十分にできる。ウサマ・ビン・ラディンだって殺していますから。

 

ちなみに、必要に応じ、インテリジェンス機関の接触も行われているはずです。国連を通じても北朝鮮外務省とアメリカ国務省(日本の外務省に当たる)も連絡を取っている。

 

弾道ミサイルや核兵器を造らせないことについて、CIAが仮に北朝鮮のインテリジェンスの誰かに「アメリカまで届くミサイルを造ったりしたら、『首狩り作戦』になるかもしれないよ」と言ったとする。「首狩り作戦」した後に、あり得るシナリオは、同じ白頭山の血筋を引く者をトップに戴くこと。それで、南スーダンみたいな傀儡(かいらい)政権にすればいいわけです。

★南スーダン:2011年7月9日にスーダン共和国の南部10州が独立し、南スーダン共和国が成立。

 

そのときに、金正男は魅力的です。

 

こういった補助線を引いて考えていくと、北朝鮮が慌てて金正男殺害計画を立てたという理由が見えてくるわけです。

作家、元外務省主任分析官

1960年東京都生まれ。大宮市(当時)で高校卒業まで育つ。埼玉県立浦和高校卒業後、同志社大学神学部に進学。同大学院神学研究科修了。在学中は組織神学、無神論について学び、特にチェコの神学者、ヨセフ・ルクル・フロマートカに興味を持つ。85年外務省に入省。在英国日本国大使館、在ロシア連邦日本国大使館に勤務した後、本省国際情報局分析第一課主任分析官(課長補佐級)として対ロシア外交の最前線で活躍。外交官としての勤務のかたわら、モスクワ大学哲学部の講師(弁証法神学)や東京大学教養学部非常勤講師(ユーラシア地域変動論)も務めた。2002年5月、鈴木宗男事件に絡む疑惑をうけて、背任と偽計業務妨害容疑で東京地検特捜部に逮捕、起訴され東京拘置所で512日間拘留。2005年に執行猶予付き有罪判決。2009年6月に最高裁で上告棄却、執行猶予付き有罪確定(懲役2年6カ月、執行猶予4年)で外務省を失職。2013年6月、執行猶予期間を満了し、刑の言い渡しが効力を失った。
2005年に発表した『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。2006年『自壊する帝国』で第5回新潮ドキュメント賞、第38回大宅壮一ノンフィクション賞受賞。

著者紹介

連載佐藤優の地政学リスク講座~北朝鮮、金正恩の戦略を探る

 

 

佐藤優の地政学リスク講座 一触即発の世界

佐藤優の地政学リスク講座 一触即発の世界

佐藤優

時事通信出版局

一触即発の世界はいつまで続くのか。 佐藤優が北朝鮮問題に切り込んだ本書の内容をQ&Aで紹介します。(本書の内容を構成しました。「…」部分は本書で) Q 米朝開戦の可能性は! ? 佐藤優 危機は高まってきている。5軒先でボ…

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

登録していただいた方の中から
毎日抽選で1名様に人気書籍をプレゼント!
会員向けセミナーの一覧