今回は、もし金正恩が消された場合、北朝鮮の「核兵器」はどうなるのかを取り上げます。※本連載は、元外務省主任分析官として対ロシア外交の最前線で活躍し、現在は作家として執筆活動やラジオ出演、講演活動を行っている佐藤優氏の著書『佐藤優の地政学リスク講座 一触即発の世界』(時事通信出版局)の中から一部を抜粋し、緊張が高まる国際情勢分析をご紹介します。※本連載は、2018年1月22日刊行の書籍『佐藤優の地政学リスク講座 一触即発の世界』から抜粋したものです。
核の争奪戦が勃発!?
では、仮に、金正恩がもし今後消されたとして、その後、何が起きるか。
アメリカと中国と韓国の3国の間で北朝鮮の核の争奪戦ですよ。早く核兵器を見つけて確保する競争になります。
私は、そうなったらおそらく、北朝鮮は同じ民族である韓国に核のありかを教えると思う。それで、韓国が核兵器を握る。そうなったときに韓国は核を手放すか。手放さないと思う。核兵器を持った韓国が竹島問題や慰安婦問題で日本に対峙してくることになります。これは恐らく、今の北朝鮮の事態よりも面倒なことになる。
北朝鮮には民意がありませんから、外交においては、金正恩と取り引きすれば、とりあえず外交交渉が成立する。
ところが、韓国は民意がある。そして、その民意がポピュリズムによって極端に揺れる。これは私たちがすでに見ているところです。朴槿恵(パククネ)に対する判決(大統領罷免)に対するデモでも死者が2人出るぐらいです。こういう状況の国が核を持ったらどうなるか。
この問題は、我々は真剣に考えないといけないんです。
だから、日本の国益を考えると、金正恩はけしからんから、あいつの首狩りをしてしまえばいいという、そういう単純なシナリオにはならない。
北朝鮮と同様、韓国にも不安定性と日本の安全保障上の危険性がある。これはきちんと政府関係者が考えなくてはいけないことです。
作家・元外務省主任分析官・同志社大学神学部客員教授(学長特別顧問、東京担当)
1960年東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了後、専門職員として外務省に入省。
在イギリス大使館勤務、在ロシア大使館勤務を経て、外務省国際情報局で主任分析官として活躍。2002年、背任と偽計業務妨害容疑で逮捕・起訴され、09年6月に執行猶予付き有罪確定(13年6月に執行猶予期間が満了し、刑の言い渡しが効力を失った)。
著書に『国家の罠』(毎日出版文化賞特別賞)、『自壊する帝国』(新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞)、『十五の夏』(梅棹忠夫・山と探検文学賞)、『池田大作研究 世界宗教への道を追う』、『対決!日本史 戦国から鎖国篇』など多数。20年12月、菊池寛賞(日本文学振興会主催)を受賞。同志社大学神学部客員教授も務める。
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連載佐藤優の地政学リスク講座~北朝鮮、金正恩の戦略を探る