「走出去」政策の背景にある対外資産負債構造の問題
元来、中国が対外進出促進(走出去)政策を推進してきた背景に、国全体の対外資産負債構造が収益性の面でバランスを失しているとの認識があった(17年5月18日付全景網)。2014年末の対外資産総額は6.41兆ドル、うち外貨準備シェア61%、民間部門の証券投資、直接投資が各々4%、12%。これに対し対外負債の58%は海外からの対中直接投資、適格海外機関投資家(QFII)を中心とする証券投資11%だった。
資産面では直接投資、証券投資の割合が低い上に、外貨準備の大半が投資されている米国債利回りが2〜3%で推移してきたのに対し、対外負債の過半を占める中国内での外国企業の投資収益率ははるかに高い(05年の世銀調査で平均22%という)。
その後17年9月末、外貨準備シェアが47%に低下する一方、走出去政策で直接投資シェアが21%、また証券投資も7%へと上昇するなど、資産構造は収益面で改善が見られているが、一帯一路は経済的には従来の走出去政策の延長で、対外資産構造の改善という観点から、そのプロジェクトの収益性、リスクをどう評価するかが大きな問題となる。
[図表1]中国対外資産負債構造
地政学的リスク、インフラ投資回収の難しさ等が懸念に
中国内外で指摘されている主要リスクは以下だ。
①沿線地域にテロ組織、過激派組織が蔓延、また現地の人種・宗教・領土紛争に中国が巻き込まれる地政学的リスク。中国現代国際関係研究院が15年からリスクマップを作成、高峰論壇の際にも改訂版を公表した。S&P等国際格付け機関によると、68沿線諸国のうち27がジャンク格付けまたは投資不適格、アフガニスタン、イラン、シリアを含む14か国が格付けなし、または格付けの依頼を取り下げた状態にある。
②一帯一路は西欧、ペルシャ湾岸、東アフリカ、インド洋、ロシア、中央アジア、南アジアと広範な地域に及び、沿線諸国の経済発展水準、社会政治体制、人種、宗教、文化は一様でない(中パ経済回廊関連のプロジェクトがこの典型)。中国はこうした問題に対応する経験に乏しい。
③一般に基礎インフラ投資を短期で回収することは難しいが、沿線地域の地政学的不安定性から、中長期的にも回収が困難となるリスクがある。輸出入銀幹部は「過去40年間、経済的に実施可能なプロジェクトはすでに手掛けてきた。残っているのは金融の観点からは実施困難なものだけ」と述べている(17年6月15日付美国之音、ボイスオファメリカ)。
要は、一帯一路プロジェクトのリスクは国内プロジェクトより高い。さらに、国内の基礎インフラ投資の場合、①公共財として中央地方政府が資金を投入、②投資主導の経済成長で税収が増加、特に土地の収用・譲渡に伴う収入に大きく依存する地方政府は、インフラ投資→周辺地域の土地価格上昇→土地譲渡収入の増加という形で、投資資金を「回収」できた。しかし一帯一路投資の場合、こうしたメカニズムも働かない。
[図表2]一路一帯リスクマップ
一帯一路投資は合理的とする見方も
他方で、中国経済の現状を考えると、一帯一路投資は合理的で正当化されるとの見方もある(17年5月15日付新浪財経他)。すなわち、
①中国経済は投資主導で成長してきたが、世界経済の成長鈍化、鉄鋼、セメント、不動産等で過剰供給が発生し、国内の投資効率が急速に低下。
②中国政府は発展の後れた辺境地域の開発を政策課題にしており、外貨準備を米国債より収益性が高く、辺境地域の発展に繋がる投資プロジェクトに活用したいと考えるのは合理的。
③ミクロ的に収益性は低くても、マクロ的には投資が相手先の発展を促し、中国との貿易投資も活発化する。
④市場経済先進国の場合、投資の機会費用は消費で、投資効率低下→個人貯蓄低下→消費増加というメカニズムが期待できるが、中国の場合、国有企業が大半で個人は企業の所有者ではなく、消費は投資の機会費用になっておらず、こうしたメカニズムは働かない。投資縮小→消費は増加せず総需要減少→過剰生産能力発生、経済全体が縮小の恐れが強い。したがって、国内投資の減少を海外投資で補うことが不可欠。