行政に働きかけて「交通網の整備」を促す
地域医療構想を進めるうえで、高齢者に向けた交通網の整備不足が指摘されることは少なくありません。高齢ドライバーによる危険運転が社会問題化していますが、地域に住む高齢者にとって、自家用車のない生活は不便を極めます。
行きたい時に行きたい場所へ。それが叶えば、多くの高齢者が家にこもらず、外出するようになるはずです。外出する機会が増えて歩くことによって、筋肉や心肺機能が鍛えられ、寝たきりになることを防ぎ、また認知症を防ぐ大きな一歩にもなるよい循環ができます。
どの地域にどれだけ交通網が足りていないのか、実際の高齢者の声を聞き取りながら、行政に向けて公共交通機関の再編を促すことも、地域包括支援センターが中心になれば可能です。高齢者のための新たなバスルートの開設や、ボランティアによる介護タクシーの運営などを実現化している地域もあります。取り残されている高齢者の声を吸い上げることのできる、もっとも重要な位置にあるのが、地域包括支援センターなのです。
地域イベントの開催で、身体を動かすきっかけづくり
地域の高齢者の健康寿命をのばすような取り組みも大切です。内閣府が60歳以上の人に聞いた調査によれば、「テレビ・ラジオ」「新聞・雑誌」など家のなかに楽しみを見出している人が圧倒的であるという結果が出ました。一方、旅行やスポーツだけではなく友人と語らうことや食事、飲食などによる外出に楽しみを見出している人もいます。
私たちは、30代を過ぎると、1歳年をとるごとに筋肉量が1%減るといわれています。普通に生活していても減少してしまうのですから、高齢者は特に、日々の生活のなかで意識的に筋肉量を増やすような工夫をすることが必要になります。そのために効果的なのが、スポーツやレジャーなど、身体を動かすことを趣味にし、習慣化させてしまうことです。
身体を動かすことはよいリフレッシュにもなりますが、ただ目的もなく続けようとしても、なかなか楽しみを見出すことはできず、すぐに飽きてしまうでしょう。そこで、たとえば「山登りがしたい」「ハイキングに行きたい」など、身体を動かす趣味活動や目的に結びつけることで、無理なく運動を習慣化することができるはずです。
[図表]高齢者の普段の楽しみ
そこで高齢者が楽しみながら身体を動かすきっかけづくりとして、私の法人の地域包括支援センターでは、高齢者の自宅や集う場所を車で巡回し、希望者が参加できる小さなイベントを行っていくことも計画しています。イベントでは、楽しみながら、「運動」「食事」「認知行動療法」について学び、実践できるようにしていきます。
高齢者がパチンコ店などの娯楽施設で遊戯を楽しむ姿や、病院の待合室が談話室のようになっている様子もしばしば見受けられます。それ自体が悪いとはいいませんが、高齢者が自分自身の身体や認知機能について学び、できる限り長く自分の心身を使って生活していく小さな努力をするためにも、医療機関が積極的に働きかけていくことが求められるのです。