日本の住宅総数6,063万戸のうち、820万戸が「空き家」だといわれています(総務省統計局HPより)。本連載は、『空き家・空き地をめぐる法律実務』(新日本法規出版)の中から一部を抜粋し、空き家・空き地にまつわる困った問題について、Q&A形式で解説します。

「特定空家等」に該当すれば、除去等の措置が可能

Q:隣の空き家が年々私の敷地に傾いてきています。今年はとうとう私の家に接触するぐらい傾いてきました。このままでは私の敷地に侵入してきそうですが、何とか止めてもらう方法はありませんか。

 

A:空家対策特別措置法は、適切な管理が行われていない空き家のうち、ある一定の状態になったものを「特定空家等」とし、これに該当すれば市町村長が、建物所有者に対して建物の除却・修繕を命じることができるとしています。したがって、隣の建物が特定空家等に該当すれば、市町村長は除却等の必要な措置をとることができます。

 

また、隣の家が傾いて敷地に侵入してきそうな場合であれば、あなたの家が建っている土地の所有権侵害が問題になります。したがって、その可能性が高い場合には、侵害されることを予防するために土地所有権に基づく妨害予防請求権を根拠として傾斜防止措置を求めることになります。相手方が任意に措置をしない場合には、補修を求める裁判を起こして相手方に防止措置を命じてもらいます。なお、相手方がそれでも実行しない場合には、判決に基づいて代替執行をすることができます。

空き家の傾斜が20分の1超あれば「特定空家等」に該当

解説

 

1 空家対策特別措置法に基づく処置


空家対策特別措置法では、「特定空家等」に該当する建物については、市町村長が建物所有者に対して、建物の修繕や除却を命じることができるとしています。

 

ここにいう「特定空家等」とは、適切な管理が行われていない空家等のうち特定の状態、例えば「そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態」「そのまま放置すれば著しく衛生上有害となるおそれのある状態」「適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態」「その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態」にあるものなどを指します(空家2②)。

 

「そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態」にあるかどうかの判断の参考として、国土交通省が「「特定空家等に対する措置」に関する適切な実施を図るために必要な指針(ガイドライン)」を作定しています。

 

ガイドラインによれば、判断基準の1つとして「著しい傾斜がある」か否かが問題となり、著しい傾斜とは20分の1超の傾斜とされています。

 

したがって、隣の空き家の傾斜が20分の1超であれば特定空家等に該当する可能性があります。この場合、あなたは市町村に情報を提供して、市町村の調査を求め特定空家等の認定を促します。市町村が特定空家等と判断すれば空き家所有者に助言・指導、勧告等を出すことができ、これに所有者が応じれば問題は解決することになるでしょう。

本連載は、2016年2月15日刊行の書籍『空き家・空き地をめぐる法律実務』(新日本法規出版)から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

空き家・空き地をめぐる法律実務

空き家・空き地をめぐる法律実務

編集:旭合同法律事務所

新日本法規出版

空家対策特別措置法の内容を盛り込んだ最新版! ! 空き家・空き地をめぐるトラブルに対応するために! ◆ 空き家・空き地の問題について、Q&A形式でわかりやすく解説しています。また、実務に役立つ文例・書式も随所に掲載…

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