前回に引き続き、中小企業の「親族内承継」における課題と対策を説明します。今回は、贈与による株式の承継について見ていきましょう。※本連載は、島津会計税理士法人東京事務所長の岸田康雄氏と、事業承継コンサルティング株式会社の取締役である村上章氏による共著、『図解でわかる 中小企業庁「事業承継ガイドライン」完全解説』(ロギカ書房)の中から一部を抜粋し、中小企業庁によって策定された「事業承継ガイドライン」を分かりやすく読み解き、「事業承継」の重要性について詳しく探ります。

大きな障害となる「事業承継直後の資金負担」

前回の続きです。

 

親族内承継においては、先代経営者から後継者に対し、株式や事業用資産を贈与・相続により移転する方法が一般に用いられています。この場合、贈与税・相続税の負担が発生するが、事業承継直後の後継者には資金力が不足していることが多く、場合によっては会社財産が後継者の納税資金に充てられることもあります。

 

この場合、事業承継直後の会社に多額の資金負担が生じることとなり、事業承継の大きな障害となっています。

 

以下では、事業承継に向けた準備を進める経営者・後継者や支援機関が知っておくべき基本的な制度等は、いずれの手法も一長一短があり、個別具体的な事案において最も適合的な手法を採用する必要があります。また、手法によっては前もっての準備が必要な場合もあります。

 

年間110万円の基礎控除を受けられる「暦年課税贈与」

①暦年課税贈与

 

財産を生前贈与する場合、贈与税が課税されます。いわゆる暦年課税贈与を活用する場合、年間110万円の基礎控除を受けることができます。一方、税率は10%~55%の累進課税であるため、株式の評価額が高い場合には贈与税も非常に高額となり、後継者に多くの株式を贈与することが困難となる場合があります。

 

<参考>贈与税の税率

一般贈与財産用(一般税率)

※兄弟間、夫婦間、親子間で子が未成年者の場合等に適用されます。

 

特例贈与財産用(特例税率)

※直系尊属(祖父母や父母など)から、その年の1月1日において20歳以上の者(子・孫など)への贈与税の計算に適用されます。

 

②相続時精算課税贈与

 

生前贈与を行う場合、上記①の暦年課税贈与によることが原則ですが、受贈者の選択により、「相続時精算課税制度」の適用を受けることができます。同制度の概要は以下のとおりです。

 

●相続時精算課税を選択できるのは(年齢は贈与の年の1月1日現在のもの)、贈与者が 60歳以上の父母又は祖父母であり、受贈者が20歳以上かつ贈与者の推定相続人である子又は孫に該当する場合に適用できます。

 

●贈与税は特別控除により累積で2,500万円までは課税されません。

 

●贈与額が2,500万円を超えた場合、その超えた部分については一律20%の 贈与税が課税されます。

 

●贈与財産の価額は、贈与者について相続発生時に、相続財産の価額に合算 され、相続税において精算されます(贈与時に贈与税を納付していた場合、納付すべき相続税額から控除されます。)。

 

ただし、いったん相続時精算課税制度を選択すると、その後同一の贈与者からの贈与については同制度が強制適用され、暦年課税制度によることができません。また、贈与者の相続時には、贈与財産の贈与時の価額が相続財産に合算されるため、贈与財産の価額が相続時に上昇した場合には有利に、下落した場合には不利に働きます。

 

従って、暦年課税制度と相続時精算課税制度のいずれによるかは、贈与が可能な期間や所有財産の価額の動向を勘案して慎重に選択する必要があります。

 

<参考>暦年課税制度と相続時精算課税制度の比較

 

この話は次回に続きます。

 

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本連載は、『図解でわかる 中小企業「事業承継ガイドライン」完全解説』(ロギカ書房)を一部抜粋し、加筆・再編集したものです。

図解でわかる 中小企業庁「事業承継ガイドライン」完全解説

図解でわかる 中小企業庁「事業承継ガイドライン」完全解説

岸田 康雄,村上 章

ロギカ書房

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