現経営者の親族との合意形成が重要な「従業員承継」
【1】 従業員による資金調達
従業員承継は、後継者が有償で株式や事業用資産を買取ることが多く、その買取資金の調達が問題となります。また、関係者の理解を得るのに時間がかかり、現経営者の親族との合意形成が重要となります。
「従業員承継」を行う際には、現経営者の親族や、後継者である従業員の配偶者といった関係者の理解等を得るのに時間がかかる場合もあるため、後継者の経営環境の整備により一層留意する必要があります。
また、株式・事業用資産を相続等によって取得する親族内承継と比較して、所有と経営の分離が生じやすいものです。株式・事業用資産の承継は、有償譲渡によることが多く、その場合、相続税対策は不要となるものの、買取資金の調達や現経営者及び親族との合意形成が極めて重要となります。
なお、遺贈や贈与によって無償で株式・事業用資産を承継する場合は相続税・贈与税の課税を受けることがあるため、留意が必要です。
後継者との対話を重ね、責任感を持たせることが重要
【2】 従業員承継における経営の承継
会社の「番頭さん」は他の従業員との信頼関係ができているため、事業承継後も会社の一体感を維持しやすいというメリットがあります。
従業員にとって必要となるものは、会社経営の覚悟と責任感です。現経営者は、後継者となる従業員との対話を重ね、責任感を持たせることが重要です。
現経営者の親族とも対話して、後継者となる従業員との関係を調整しておくことも大切です。
従業員が後継者となる場合、社内で一定の経験を積み、経営に近い役割を担ってきた従業員、いわゆる「番頭さん」が後継者となる例が多くあります。「番頭さん」 は他の従業員との信頼関係を構築できているため、会社の一体感などを事業承継後も維持しやすいといったメリットがあります。
一方、従業員と経営者で大きく異なるのが、会社を経営することに対する覚悟や責任感であると言われます。そのため、従業員に承継を行おうとする場合、まずは当該従業員との対話を重ね、また責任のある役職に置くなどして、自身の責任で会社を経営するのだという覚悟を持ってもらうことが重要です。
また、現経営者の親族等が事業承継後の従業員後継者による会社経営に協力していけるよう、現経営者による親族等の関係者との対話も重要です。ここでいう関係者には、会社経営という大きな責任を引き受ける従業員後継者の配偶者等も含まれるものと考えられます。
近年は、従業員後継者と現経営者の親族との関係を調整するために無議決権株式や優先株式等を活用するケースも見られます。
この話は次回に続きます。
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