社長の関心と行動の焦点が向かうべき先とは?
社長とは事業を経営する人である。では、事業とはいったい何なのか? 事業の本質は、市場活動である。市場とはマーケットである。マーケットにはお客さまと競争相手がいる。だから、お客さまを競争相手と、とりっこする。これが事業の経営である。
創業者である社長の息子が二代目社長に就任すると、だいたい最初にやることは、組織改革や給与規定の見直し、社員教育です。身に覚えはありませんか?
創業経営者の息子は、だいたい有名大学に通い、品が良く、お勉強ができる。ろくに教育を受けられなかった創業経営者は、せめて息子には、と経営学なるものを学ばせて、総務や管理中心の仕事を覚えさせる。
これが全面的に間違いだというつもりはありませんが、社長とは事業を経営する人である限り、事業の成果、事業の存在意義は、会社の内部を見渡してもどこにもありません。
事業とは、常に外に対する効果が先で、次に内部の効率があります。そのために、組織や社員にばかり気を取られていたら、会社にとって一番大切なマーケットでの存在意義が薄れ、売り上げは下がります。売り上げが下がれば、社長は下がった原因を社員のせいにします。さらに「組織」や「社員教育」に力を入れると、いつの間にか優秀な社員から辞めていくのです。
社長は、関心と行動の焦点の90%以上を外部と未来に向けるべきであろうと思います。
そもそも、組織というのはなぜ必要なのでしょうか? 組織は、会社の役割、存在意義であるお客さまに対してもっともサービスができる、お客さまにとってもっとも都合のいい組織が、会社にとってのいい組織です。人と仕事の関係でいえば、「人に仕事がついている」わけではなく、「仕事に人がついている」と考えるべきでしょう。
また、役割を分担するということは、「それは、私の役割ではありません」という無責任な社員をつくるということも知っておかなければなりません。
社長の仕事は、「正しいことを遂行すること」で「ものごとを正しく遂行すること」ではありません。「ものごとを正しく遂行する」のは、幹部の仕事です。社会の変化とお客さまニーズの変化に合わせて、儲かる商品や業態を自ら開発するのが、社長の正しい仕事です。
中小企業には、社長より優秀な人は絶対に来ない
まったく、うちの会社には優秀な社員がいない、とよく愚痴をこぼす社長がいます。だいたい社長が、社員の悪口を言っている会社の業績は悪い。
私も経営者の端くれとして、その気持ちはわからなくはありませんが、業績不振の原因を社員の能力のせいにしているとすれば、それは大きな間違いのように思います。社員の質で会社が決まるなら、社長は誰でもいい。
社長と後継者が集うセミナーでこんな話をしたことがあります。「社長業とは大変なものですが、皆さんは、なぜ現在、社長をやっているのでしょうか? いろいろな理由があるでしょうが、共通するのは『自分ならできる』と感じたからでしょう。では、なぜ『できる』と感じたのでしょうか。それは恐らく、皆さんが優秀な方だからですね。つまり、優秀な人というのはいつまでも会社に残らず、自分で会社を興してしまうものなのです。つまり、優秀な社員なんてものは存在しないのです。自分は優秀でないと思っている人だけが、社員として働くのです」
ここで問題なのは、中小企業には、優秀な人が本当に来ないという「事実」ではなく、そういう「心構え」が大事ということです。もちろん、これからは人材で差がつく時代ですから、少しでも優秀な人材を集めることをあきらめてはいけません。ただ、優秀な人材が来ないから何もできないとおっしゃるなら、優秀な社長自身が全部やればいいと思うのです。
ちなみに、どうしても優秀な人材を集めたければ、当面自分の給料を50万円ぐらいに我慢して、貪欲で優秀な人から「ぜひ入れてくれ」と頼まれるよう、以下にお金を使ってみてください。
●会社の立地や設備などの「見た目」
●会社説明会などでのパフォーマンスに力を入れた、妥協のない採用活動
●給料は同業他社の相場と比較して10%高く
そうすれば、数年後、優秀な社員が勝手に稼いでくれますから、社長の給料は何倍にもなって返ってくるはずです。