前回は、「経営計画書」の重要性について説明しました。今回は、「現状分析」の意義と、会社の将来を決める「事業の方向付け」について見ていきます。

なぜ「現状分析」が必要なのか?

会社が厳しい状況になると、コンサルタントに助けを求めることが多いです。社員に「今の会社の問題点は何ですか」とヒアリングをして、外部環境の要素を加味し、「御社の問題点はここです」といった「現状分析」をやります。

 

しかし、現状を知れば知るほど、気持ちが暗くなるから改革の意欲がわかない。うすうすわかっていることをダメ出しされると、「できない理由の発表会」になりがちです。

 

では、現状分析はなぜ必要なのでしょうか。それは、未来の理想像・手に入れたい結果と現状のギャップを知るためにあります。

 

具体的には、

 

①目標を持つ

②目標達成のための課題を知るために現状を把握する

③目標と現状とのギャップ(課題)を埋めるための方法をひたすら考える

(その際必ずゴールからの逆算で考える)

④考えて実行して失敗して修正するプロセスを大いに楽しむ

(数字は追いかけるもので、追い詰められるものではない)

 

たとえば、売り上げの目標を対前年120%と設定すれば、今のやり方の延長線上に達成の術がないことは、今の世の中誰でもわかります。大切なのは、目標を達成することよりも、目標を達成するためにどんな戦略で、どんな方法で戦うか、徹底して考えを巡らし、アクションプランまで落としていくことでしょう。

 

企業とは「業を企たくらむ」と書きますから、社会に対して何の企みもない企業は、企業とはいいません。

 

優秀なリーダーは、決して現状の問題点を指摘しない。何としても成し遂げたいというゴール(あるべき姿)までの道のりを指し示すことだけが、周囲をモチベートする唯一の方法だということを暗に知っているのだろうと思います。

 

それまで、数々あった問題は、ゴールに向けた活動によって、いつの間にか問題ではなくなっているのです。だから、目標がない会社に現状分析はいらないのです。

「5年後」を見越して各種の手を打てるか

静岡県にある精密機器のメーカー、スター精密は1947年創業。創業時は部品の下請けメーカーにすぎませんでしたが、創業時から脱下請けを目指して様々な策を講じた結果、工作機械という分野でマーケットシェアを得ることができました。これは、現在でもスター精密の稼ぎ頭になっています。

 

創業から10年後の1960年代には、国内でもつくればいくらでも売れる時代に、好景気はいつまでも続かないと見越して、海外への販路開拓を始めました。

 

最初はまったくの手さぐりでしたが、10年かけて輸出事業を黒字にし、1970年代には生産拠点も人件費の安い海外に確立しました。後に大手メーカーの海外工場への進出がブームになりましたが、だいぶ先を行っていたのです。他のメーカーが今日の売り上げ、今日の利益に満足し、血眼になって節税策を講じている間に、スター精密は10年後の会社の市場を開拓していたわけです。きっと今頃は、2020年あたりを想定して業態を開発していることでしょう。

 

先見の明があったという言葉で片づけてしまえばそれまでですが、一つの市場がいつまでも続かないことや、国内の人口が将来的に減少することは、1970年代の時点から誰にでもわかっていたことです。その事実に目をつむって対策を後回しにするか、先を見越していろいろな手を打つかの違いがあったわけです。

 

「社長の最大の役割は事業の方向づけである」スター精密、佐藤社長のことばです。

 

現在、会社の業績が思わしくないことは、現在の努力不足によって起こっているわけではありません。ましてや、社員が以前よりさぼって、稼がなくなったわけでもありません。5年前に、社長が事業の方向づけをしなかったからです。

 

これからの1年、経営計画書の作成を決め、5年後の新たな稼ぎ頭を確立するための最初の年として、全社を挙げて商品開発、業態開発に取り組む決定をするか、それとも、相変わらず日々の売り上げを追いかけることに終始するか、その決定で5年後の未来が既に決まっているのです。

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    本連載は、2014年2月27日刊行の書籍『低成長時代に業績を伸ばす社長の条件 』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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    関根 威

    幻冬舎メディアコンサルティング

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