複雑な株の持ち合いは何を意味しているのか・・・? アウトローの公認会計士・岸一真が暴き出した驚愕の金融トリックとは・・・? 本連載は、完全犯罪崩壊までの息を呑む攻防を描く瞠目のクライムサスペンス、宮城啓の小説『ヘルメスの相続』を一部公開いたします。

 主な登場人物 

 

 

終戦

 

 

1

 

 

 

昭和二〇年一〇月一六日 朝日新聞朝刊一面

 

獨占(どくせん)支配を破碎し

不當利得吐出し

クレーマー大佐言明 財閥の解體(かいたい)検討

 

聯合(そうごう)司令部経済科學局長クレーマー大佐は、十五日午後日米新聞記者團との會見において、財閥解體についての措置が近くとられる旨を明らかにし、あはせて當面(とうめん)の経済問題に関し意見を開陳した、同大佐の談話趣旨は以下のごとくである

 

三井、三菱、住友などの財閥については目下種々研究中でポツダム宣言に沿つてその解體を考慮してゐる、その仕事の第一段階は既に終了し、目下財閥の機構を研究中である、勿論機構といつても各財閥によつて異り、これを同日に論ずるわけには行かない、またどの財閥をどうするかといふこともいへない、しかし財閥に対應(たいおう)する根本原則は二つある、第一はこれら財閥は戦争中巨額な不當利得を得たが、彼等から戦時利得を吐き出させ、すべての日本人に戦争が決して有利な事業でないといふことを、深くその脳裏に刻みつけることである

第二には全体主義的な獨占(どくせん)力を持つた経済勢力の破碎である

 

 

 

男の目が新聞記事にくぎ付けになっていた。記事を読みながら次第に笑みがこぼれ、喜びが胸に込み上げてきたが、そんなに浮かれてもいられない。何はともあれ、これからが本番だ。

 

「マッカーサーは本気のようだな」

 

眼前の役員机に座っている秦和雄(はたかずお)は、今まで見ていた書類を決裁箱に入れると、仏頂面を男に向けた。

 

「だから言っただろ。GHQは必ず財閥を解体する」

 

最初は信じられなかった。九月に発表された米国の占領方針の中に、この財閥解体が盛り込まれたものの、なにしろ、三井、三菱、住友、安田の四大財閥に、自発的解体を求めたに過ぎなかったからだ。三菱はそれを突っぱねるし、首相の幣原(しではら)も財閥を擁護するばっかりで、生ぬるいこと至極だ。気を吐くのは社会党だけだった。それがこの会見で、マッカーサーの強硬な姿勢がわかった。さすが秦だ。こいつは占領方針発表前から、こうなることがわかっていた。

 

「財閥解体は既定路線。マッカーサーはそのうち解体命令を出す」と。

 

男は興奮し鼻を膨らませた。ああ、愉快だ。これほど胸躍るのは久しぶりだ。日本が無条件降伏してからというもの、とんでもねえ暮らしが続いている。とにかく、情けなくてしようがねえ。負けるんだったら戦争なんかやらなきゃいいんだ。マッカーサーなんか糞くらえ。だが、戦争でたらふく儲けた財閥はもっと汚ねえ。俺たち庶民が、闇市の残飯シチューでやっと生き延びてるってのに、あいつらはしっかり白い米を食ってやがる。あいつらを解体しようっていうんだから、米国の鬼畜野郎どもの方がまともだ。これで俺にも、運が回ってきたっていうもんだ。

本連載は、2016年12月10日刊行の書籍『ヘルメスの相続』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

ヘルメスの相続

ヘルメスの相続

宮城 啓

幻冬舎

複雑な株の持ち合いは何を意味しているのか? アウトローの公認会計士・岸一真が暴き出した驚愕の金融トリック。完全犯罪崩壊までの息を呑む攻防を描く瞠目のクライムサスペンス! 「財務コンサルタント」を生業とする公…

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