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ヘルメスの相続…12〈平成二七年──盛夏〉

複雑な株の持ち合いは何を意味しているのか・・・? アウトローの公認会計士・岸一真が暴き出した驚愕の金融トリックとは・・・? 本連載は、完全犯罪崩壊までの息を呑む攻防を描く瞠目のクライムサスペンス、宮城啓の小説『ヘルメスの相続』を一部公開いたします。今回は、第12回です。

 主な登場人物 

 

「お断りだ」

 

一瞬、間があった。見る見るうちにレイラの目が吊り上がり、眉間に深い縦皺が寄った。

 

「なぜよ!」

 

「俺は財務コンサルタントだ。探偵じゃない」

 

「でも、パパは永友さんからあなたを紹介してもらって……」

 

「アメリカ大使館にでも警察にでも行ってくれ」

 

「もう連絡したわ。でも取り合ってくれないのよ。もう少し待ったらどうかと言って」

 

「じゃあ、もう少し待ったらどうだ」

 

「待てないわ。だっておかしいじゃない。約束したホテルにいないのよ。何かトラブルに巻き込まれたのかもしれないのに」

 

「すっぽかされただけだろ」

 

「何よ、その言い方」

 

「まあ、男女関係には何があってもおかしくない」

 

「ちょっと待ってよ。なんてこと言うの。コナーは約束を破るような人じゃないわ」

 

「とにかく、俺はごめんだ。悪いが他を当たってくれ」

 

とその時、携帯の着信音が聞こえた。液晶画面に永友武志と表示されているのを見て、岸は安堵した。何とかして、このわけのわからない案件を断りたかった。

 

「もしもし。岸です」

 

「永友だ。コールバックしてくれたようだが、会議中で電話を取れなかった。悪かったな」

 

「いえ」

 

「今朝、君に電話をしたのは、折り入って頼みたいことがあったからなんだ」

 

「わかってます。今、私の目の前にレイラさんがいます」

 

少し間が空いた。永友は状況を想像しているようだった。「そうか。もう説明を受けたのか?」

 

「ええ、あらかた」

 

「じゃあ話が早い。財務の仕事ではないが、君しか頼る者がいない。何とかお願いしたい」

 

「そのことですが、永友さん。この案件はどう考えても専門外です。これじゃあ探偵ですよ。私には到底無理です」

 

「そう言うな。君は捜査官として、警察でも活躍したじゃないか。立派な成果もあげている」

 

昨年、岸が監査法人に勤務している時、警察へ捜査官として出向し、マネーロンダリング事件の捜査に協力して、事件解明に大きく貢献した。

 

「ちょっと待ってください。あれは財務捜査じゃないですか。わけのわからない人探しじゃない」

 

「何なのよ、その言い方!」

 

レイラの声が耳に届いたが、無視した。

 

「これは私の将来にも関わる重要な案件なんだ。レイラの父親は、我々東亜監査法人のワールドファームの幹部だ。断るわけにはいかない」

 

「それなら尚更です。何らかの事件に巻き込まれたとすれば、警察に頼んだ方がいいです」

 

「事を大げさにしたくない。君もわかるだろう。幹部の娘さんが、何かの事件に巻き込まれたと社内に知れたら、大変なことになる。足を引っ張るライバルが大勢いるからな。それに、これはここだけの話だが、アントニーはコナーとレイラの交際を認めていない。コナーが警察沙汰になるのは構わないが、レイラが巻き込まれることだけは避けたいと言っている」

 

「じゃあ、コナーの行方なんかどうでもいいんですね」

 

岸はレイラに聞こえないように小声で言った。

 

「まあ、そんなところだ。彼女をアメリカに無事に帰すこと。それが依頼内容だ。だが、彼女は一筋縄ではいかない娘だ。親の反対を押し切って、自分でコナーを捜すと言い張ってる。手の付けられないじゃじゃ馬娘だ」

 

岸は、髪の毛を毟りたくなるような感情を抑えた。

 

「もちろん、事件性があれば警察に頼むしかないが、そうと決まったわけじゃない。コナーが新しい彼女を見つけて、二人で観光しているのかもしれない。だから、むやみに警察沙汰にしたくないんだ。警察が動き回ったらマスコミに知れる。そうなる前に、何とか片が付くならそうしたい」

 

「しかし、こればっかりは無理な話です」

 

「報酬は充分払う。とにかく頼む」

 

「カネの問題じゃないんです」

 

「報酬は五〇〇万円。着手金として三〇〇万円をすぐに君の口座に入れると言ってる」

作家
税理士 

1960年生まれ。早稲田大学卒業後、世界4大会計事務所の一つに入社。国内大手証券会社でIPOコンサルティングやプライベートバンキング業務に従事した後、税理士法人を設立し代表社員に就任。税理士。上場会社のMBO第三者委員、買収防衛策独立委員など歴任。2014年、『マモンの審判』(幻冬舎)でデビュー。

著者紹介

連載ヘルメスの相続

 

ヘルメスの相続

ヘルメスの相続

宮城 啓

幻冬舎

複雑な株の持ち合いは何を意味しているのか? アウトローの公認会計士・岸一真が暴き出した驚愕の金融トリック。完全犯罪崩壊までの息を呑む攻防を描く瞠目のクライムサスペンス! 「財務コンサルタント」を生業とする公認会…

 

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