複雑な株の持ち合いは何を意味しているのか・・・? アウトローの公認会計士・岸一真が暴き出した驚愕の金融トリックとは・・・? 本連載は、完全犯罪崩壊までの息を呑む攻防を描く瞠目のクライムサスペンス、宮城啓の小説『ヘルメスの相続』を一部公開いたします。今回は、第11回です。

 主な登場人物 

 

「それで、どういう用件なんだ」

 

「その前に、私はクライアントよ。仕事が欲しければ、私の前でタバコはやめて頂戴」

 

今の俺にはカネが必要だ。アメリカ人ほど高飛車にはなれない。この状況で突っぱねれば、元も子もなくなるかもしれない。

 

「本当にあんたが仕事の依頼でここに来たのなら、話に乗ってあげてもいい」

 

「仕事よ。れっきとした仕事。永友さんから聞いていないの?」

 

「携帯に着信があったようだが、連絡がつかない。だから俺にはあんたが何者なのかわからない」

 

彼女は大きく息を吐くと、説明するのも面倒だと言わんばかりに眉根を寄せた。

 

「私のパパ、アントニー・ジョーンズは、永友さんのニューヨーク勤務時の上司よ。パパから永友さんにお願いして、あなたを紹介されたの」

 

アントニー・ジョーンズという名を聞いてまさかと思って訊いてみた。

 

「ベイリーインターナショナルの?」

 

「そうよ。あなたのいた監査法人の上部組織よ」

 

予想が的中し、深いため息をつく。その状況を察したのか、レイラの態度がさらに大きくなったように感じた。アントニー・ジョーンズとは、ニューヨークに本部を持つ会計事務所系ワールドファーム、ベイリーインターナショナルの幹部だ。東亜監査法人はそのメンバーとなっている。つまり、親会社と同レベルの上部組織。永友はかつて、東亜監査法人のニューヨーク事務所に赴任していたことがあった。その頃から、アントニー・ジョーンズとの付き合いがあるのかもしれない。とすると、次期CEOを狙う永友にとって、彼女は粗末に扱えない上顧客ということになる。

 

パスポートの開示を要求しようと思ったが、仮にそれが事実だった場合の永友の立場を考えて思い留めた。心の中で舌打ちし、タバコを灰皿に押しつけて、ソファーに背を預ける。レイラは片方の口の端を吊り上げ、誇らしげな表情をした。

 

「依頼内容は何だ」

 

「彼が行方不明なの。ニューヨークを発つ直前までは連絡がついたんだけど、日本に着いて連絡したら、携帯が繋がらなくて……」

 

彼女の話はこうだった。

 

彼女の恋人コナー・ガルシアは元新聞記者で、今はフリージャーナリスト。日本での取材がてら、レイラと一緒に日本観光を楽しもうと計画を立て、コナーは一週間前に来日。レイラは一昨日、成田に到着し、すぐに携帯に連絡したが繋がらず、落ち合う予定の渋谷のホテルに行ったものの、コナーは昨日チェックアウトしたと、ホテルフロントから聞かされた。今も携帯は繋がらないまま、行方がまったく掴めないのだという。

 

「で、そのコナー・ガルシアを捜してほしいと」

 

「そうなの。私、日本に知り合いはいないし、パパに頼んだらあなたが何とか助けてくれるはずだって言って」

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