登場人物
●主人公・・・・・・・鈴木豊成社長、六七歳、スーパーと自動車販売店の社長。
●妻・・・・・・・・・・・鈴木幸子、六二歳。
●長男・・・・・・・・・鈴木徳雄、三七歳、大手商社のサラリーマン、妻と子二人。
●二男・・・・・・・・・鈴木継男、三五歳、後継ぎ予定者、妻と子三人。
●長女・・・・・・・・・山田順子、安月給のサラリーマンの妻、子二人。
●祖父・・・・・・・・・鈴木高願、元公務員、一年前九二歳で死亡。
●祖母・・・・・・・・・鈴木末子、九一歳、専業主婦、未亡人、健在。
●税理士・・・・・・・内山実、六七歳。
●ファイナンシャルプランナー・・・神川万年、六三歳。
●弁護士・・・・・・秋山真治、六五歳。
●不動産屋・・・・あいされ不動産 野田社長、六六歳。
●公証人・・・・・・愛知憲雄
●主人公の友達・・・・山本
最低限の基本的財産権を守る「基礎控除」
前もって、お断り。これより先、第5回は相続税の実務計算となる。気分の乗らない方は第6回へとお進み下さい。
1 基礎控除生活を守る最低限の権利
税金の計算をするにあたって、その所得なり資産なりの基本的部分を計算から外し、個人の最低限の権利みたいなものを守るために基礎控除がある。相続税の計算に当っても、この最低限の基本的財産権を守るものとして基礎控除が設定されている。
平成二八年六月現在、相続税の基礎控除は亡くなった一人に対して三千万円、それと相続人一人に対して六〇〇万円が基本となっている。だから、法定相続人が四人なら三千万円+六〇〇万円×四人で五四〇〇万円が基礎控除になる。
2 未成年者控除 成年になるまで保護
相続税には未成年者控除なる不可解な控除がある。親が死んで、その子供が二〇歳になるまでの年数分は税金を少なくする、ということである。
最近、選挙権が一八歳に引き下げられた。未成年とは何歳までか。大学生の一般的卒業年齢は二二歳、その後も就職できないフリーターもいる。実にあいまいな控除ではあるが、お上の温情控除である。相続人の中に未成年者がいる場合は未成年者控除も受けられる。
相続人の未成年者が二〇歳に達するまで、年間一〇万円の税金を控除してもらえる。ほんの少しではあるが、控除の対象になる。
3 障害者控除わずかではあるが特典
相続人が相続の時点で心身障害者である場合にも、少しだけ税額控除していただける。一般障害者は一〇万円×八五歳になるまでの残り年数分を、特別障害者は二〇万円×八五歳になるまでの残り年数を控除してもらえる。
相続後にご主人を亡くして精神障害者になっても、遡って控除してはもらえない。ちょっと納得いかないが、そう決まっているので仕方がない。
被相続人に続けて「相続人」が亡くなった場合
4 相次相続控除相続税の二重課税を排除
聞きなれない控除に相次相続控除というのがある。「お父さんが亡くなって、悲観した奥様が追いかけるようにして亡くなる」なんていう話はあまり聞かない。未亡人、未ダ亡ビザル人などという言葉がある。女性に対するもので、これに匹敵する男性のものはない。実際に「奥様が先立ち、残されたご主人が元気をなくして、一年後にお亡くなりになった」たぐいの話はよく聞く。
相続を受けた者が続けて亡くなる。父親の後を追うように母親や息子が亡くなったような場合、次々と相続税が追いかけてくることになる。相続税の二重課税排除の観点から、前回の相続税の一定割合を今回の相続税から控除する制度である。
5 配偶者の税額軽減財産の三分の一か一億六千万円まで
控除とよく似ているが、これは控除ではない。課税免除というか、課税の繰り延べみたいな制度である。
配偶者(一般的には奥様)が相続した財産からは相続税を徴収しないというか、奥様が亡くなるまで課税を繰り延べておく軽減処置である。亡くなった方、一般的にはご主人の財産は夫婦で形成してきたと思われるので、その財産の二分の一までか、一億六千万円の多い方までは相続税を課税しない方式が取られている。
配偶者である奥様(たまには旦那様)が、後日死ぬまでの間、相続税の課税を待つことになる。当然、未亡人の間に財産総額が基礎控除以下になるまで使い切ってしまえば、次の相続人、一般的には子供たちには相続税がかからないことになる。配偶者の老後の生活保護の要素が含まれている軽減処置と言える。
税法的に正しい死ぬ順序としては、財産のある者が先に死に、ない者が後から死ぬのが税金が少なくて済む正しい死ぬ順序となる。たまには逆になってしまい、大損害をこうむることにもなる。「ぽっくり往生のお寺」にお参りするときには、死んでいく順序も頼むようにしたいものである。
この軽減処置をとるためには、配偶者のもらい分が決まっていなくてはならない。相続もめで財産分割が決まらない場合などで、配偶者のもらい分が決まらないと、この軽減が受けられなくなってしまうので要注意だ。