▲トップへ戻る
ヘルメスの相続…8〈終戦〉

複雑な株の持ち合いは何を意味しているのか・・・? アウトローの公認会計士・岸一真が暴き出した驚愕の金融トリックとは・・・? 本連載は、完全犯罪崩壊までの息を呑む攻防を描く瞠目のクライムサスペンス、宮城啓の小説『ヘルメスの相続』を一部公開いたします。今回は、第8回です。

 主な登場人物 

 

定吉は思わずその者に駆け寄り、身体を引きずって何とか火元から遠ざけたが、すでに息がないようだった。死体など、何度目にしたかわからない。だが、内地に帰ってきてまで、こんなものを見るとは思わなかった。定吉の目に、戦場で逝った者たちの、無残な姿が浮かび上がる。両親や妻や子供を残して、はるか満州の地で犠牲となった多くの戦友が、今もなお、茫々たる大地にまみれ、風雨に晒されている。こいつにも親はいるだろう。妻や子がいるかもしれない。そう考えると、どうしようもなく虚しさが募る。またあの、辛く苦しい満州が頭を巡る。せめてこいつには成仏してもらいたい。定吉は手を合わせようと、横たわる遺体に近づき、その顔を見た。髪の毛が焼け縮れ、顔が煤で真っ黒だった。煙で息ができなかったのか、顎を突き出し、口を開けたまま固まっている。苦しみに喘ぐ顔だ。これ以上見ていられない。目を閉じ、合掌した。その目の裏に、真っ黒な顔が映り込む。どこかふっくらとした顔つき。女のようにも見えた。いや、女かもしれない。なぜか胸騒ぎがする。

 

目を開け、もう一度その顔を見た。何かが定吉の胸を突き刺した。まさか、そんなはずはない。

 

もっと近づき、恐る恐る凝視した。

 

そんな馬鹿な。なぜだ。なぜお前がここにいる。死んだはずのお前が、どうしてここにいるんだ。答えてくれ、舞子。どうしてここにお前がいるんだ。

 

頭が混乱し、自分の眼前で起こっていることがまったく理解できなかった。

 

これが夢であってほしいと念じた。きっと自分は幻を見ているのだ。

 

身体を横向きにし、顔を近づけて見た。自分の目に見えているものは間違いなく現実だった。死に物狂いで愛した女が、自分の目の前で焼け死んでいるなんて。

 

「舞子!」

 

定吉は泣き崩れ、拳を地面に思い切り叩きつけながら、自問した。

 

空襲で焼け死んだと聞かされたのに、いったいどういうことなんだ。あれだけの犠牲者の中、安否確認が取れなかったのはわかる。あの爆撃に晒されれば、命はまずないだろうと思うのも当然だ。空襲で死んだと、奉公先の知り合いが憶測で言ったのだとしたら、それも仕方のないことかもしれない。だが、舞子はここにいる。自分の目の前に、無残な姿で横たわっている。なぜこんなことが起きるんだ。

 

何とも言えないもどかしさと、様々な思いが頭の中で渦を巻き、破裂しそうなほど混乱した。

 

と、その時。霞む目に、何かが映った。なんだあれは。

 

目を擦り、顔を近づけて、それをじっと見つめる。

 

これは──

作家
税理士 

1960年生まれ。早稲田大学卒業後、世界4大会計事務所の一つに入社。国内大手証券会社でIPOコンサルティングやプライベートバンキング業務に従事した後、税理士法人を設立し代表社員に就任。税理士。上場会社のMBO第三者委員、買収防衛策独立委員など歴任。2014年、『マモンの審判』(幻冬舎)でデビュー。

著者紹介

連載ヘルメスの相続

 

ヘルメスの相続

ヘルメスの相続

宮城 啓

幻冬舎

複雑な株の持ち合いは何を意味しているのか? アウトローの公認会計士・岸一真が暴き出した驚愕の金融トリック。完全犯罪崩壊までの息を呑む攻防を描く瞠目のクライムサスペンス! 「財務コンサルタント」を生業とする公認会…

 

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

登録していただいた方の中から
毎日抽選で1名様に人気書籍をプレゼント!
会員向けセミナーの一覧