今回は、「ICO」の概要と税務上のポイントについて説明します。※本連載では、仮想通貨と国際税務の両方に精通する税理士・柳澤賢仁氏が、仮想通貨の実態や税務上の課題等について分かりやすく解説します。

国税庁から最新情報のアナウンスが・・・

ビットコインが、ついに一時200万円を超えましたね(国産仮想通貨のモナコインも一時2000円を超えました)。

 

まず、前回の記事に関して最新情報が出ましたので、チェックしていきましょう。12月1日、仮想通貨に関する税務上の取り扱いについて、国税庁から下記のアナウンスが出ました。まだ読まれていない方はぜひご一読ください。

 

仮想通貨に関する所得の計算方法等について(情報)

https://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/joho-zeikaishaku/shotoku/shinkoku/171127/01.pdf

出典:国税庁ウェブサイト

 

いくつかポイントがありますが、トレーダーの方にとっては「4 仮想通貨の取得価額」が実務的にはキビシイかもしれません。

 

複数回違う値段で購入した同一通貨を売却等した場合、取得原価の計算は「移動平均法」が原則とのことです。トレーダーの方は計算しきれないくらい取引を繰り返しているケースが大半かもしれないので、計算根拠を示すのに相当な労力が必要なように思います。

 

また「5 仮想通貨の分裂(分岐)」、いわゆるハードフォークによって手に入れた新しいコインについて、取得時は無価値と考え課税しないと明示されたのは朗報です。

 

マイナーの方は、「9 仮想通貨のマイニング等」でマイニングした時点で収益を認識することが明示されましたので、お気を付けください。

 

さて、今回は、目の付け所が早い起業家からよく相談を受ける、

 

「ICOしたいんですけど!」

「税金どうなりますかね?」

 

という質問に対する回答と、ICO(Initial Coin Offering/仮想通貨による資金調達)の基礎知識に関して、簡単にお伝えしましょう。

独自の暗号通貨を発行し、資金を集める「ICO」

■ICO(Initial Coin Offering)ってなに?

 

ICO(Initial Coin Offering)というのは、新規株式公開(IPO/Initial Public Offering)に掛けた言葉です。IPOが株式での資金調達を表す言葉なのに対し、ICOはコイン(仮想通貨)での資金調達を表す言葉で、トークンセールと呼ばれることもあります。

 

起業家側は、ビットコインやイーサリアムなど仮想通貨建で資金調達をし、開発資金やマーケティング予算、法令遵守等にかかるコストに充当するのが一般的で、投資家には独自の暗号通貨を発行します。

 

エンジェル投資家やVC(ベンチャーキャピタル)などだけでなく、誰でも投資家として参加できるのが特徴的です。ただ、「未公開株詐欺」に近いような「詐欺コイン」も多いと聞きますので、個人投資家の方はくれぐれもご注意ください。

 

起業家側としては、証券取引所に株式公開するのは非常に手間がかかります。しかしICOであれば、非常に簡素化して表現すれば「ホワイトペーパーを書き、世の中にアナウンスするだけ」で、現実の法定通貨(日本円など)と即時換金可能なビットコインやイーサリアムなどを調達できます。

 

従来の事業で言えば「事業計画書」なのですが、「White Paper(論文)」と呼ぶのは仮想通貨独特の文化なのかもしれません。クラウド(群衆)から資金調達するという意味では、昨今のクラウドファンディングにも似ていますよね。

 

なお、元祖ホワイトペーパーは、ビットコインのホワイトペーパーです。いまの仮想通貨の盛り上がりは、このわずか9ページのホワイトペーパーからはじまったのですから、本当に「発明」と呼ぶにふさわしいものなのかもしれません。

 

Bitcoinホワイトペーパー
https://bitcoin.org/bitcoin.pdf

 

■日本人が関係している最近の有名ICO事例

 

私の知る限り、直近ではOmiseGoという決済系の仮想通貨(暗号通貨)が、最初のICOなのではないかと思います。

 

次にALIS。ALISは広告系の仮想通貨(暗号通貨)です。続いてCOMSA。COMSAはICOプラットフォームの仮想通貨です。最後にQASH。QASHは金融系の仮想通貨と考えればよいのではないかと思います。

 

個別事例についてここでは詳しく触れませんが、COMSAはテックビューロ社、QASHはQUOINE社という仮想通貨交換業者によるICOで、それぞれ100億円超の資金調達をしています。日本経済新聞などで報道されましたので、ご存じの方も多いのではないでしょうか。

 

関心のある方は、ぜひ下記公式サイトなどをご確認ください。公式サイトには、通常ホワイトペーパーが掲載されているので、実際にそれぞれのホワイトペーパーを読んでみると勉強になると思います。

 

OmiseGo

https://omisego.network/ja/

 

ALIS

https://alismedia.jp/ja/index.html

 

COMSA

https://comsa.io/ja/

 

QASH

https://liquid.plus/ja/

ICOの税務処理は「3つのパターン」が考えられる

■ICOの税務

 

起業家(暗号通貨の発行体)側の税務です。ICOでは、ビットコインやイーサリアムなど仮想通貨建で資金調達をするわけですが、どのような会計処理・税務処理をするのが正しいのでしょうか?

 

実はこれ、一説によると、今日の改正資金決済法がICOを想定していなかったという噂話もあり、法律的にどのような取引になるのか、まだ明確ではないところがあるように思います。このあたりの疑問については、企業法務をご専門としながら、仮想通貨関係について知見を持つ弁護士の先生が何人かいるようなので、詳しくは専門家にご確認ください。

 

ただ会計・税務は、その取引が法的に、また実体としてどういった取引なのかを判断してから処理する必要があるので、起業家と投資家がどういった契約に基づいてそのICO取引をしたのかが非常に重要になってきます。

 

まだまだ前例が少ない分野でどのような処理をすべきか悩ましいところですが、個人的には結局、会計・税務上は下記の3パターンしか考えられないと思っています。

 

1. 収益計上

独自のデジタルアセット(独自暗号通貨(トークン))を販売したと考えれば、トークンセールの名のとおり、会計上はセールス(売上)として認識。この場合、税務は課税です。

 

2. 負債計上

例えば「預託金」的な性質を持つ場合などであれば、会計上は負債として認識し、税務上も課税されないケースが出てくるのではないかと思います。

 

3. 資本計上

現行の法人税法第2条第16号、法人税法施行令第8条を読む限り、「資本等取引」に該当させることができないと思いますので、これは、少なくとも日本の税務では不可能だと思います。

 

つまり、会計の原理として、受け取ったビットコインやイーサリアムなどの仮想通貨は、会計上は「借方」で資産計上すべきと思われ、相手方の「貸方」のパターンを考えると、結局は大きくこの3つのパターンしか考えられないということになります。

 

なお、諸外国の会計や税務の考え方はその国固有なので、もしかすると、どこかの国では簡単に「負債」や「資本」とできてしまう国があるかもしれませんね(※各国の法律に基づきます)。

 

次回は、トレーダーの方からよく言われる「移動平均法とかムリだし非現実的だと思うんですけど!」等々、現状の税制の限界と問題点について説明しましょう。それがなぜ「非現実的」なのか、私見を述べていきたいと思います。

 

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