今回は、出国税・相続税・法人税・消費税など、「仮想通貨で得た利益」にかかる税金について見ていきましょう。※本連載では、仮想通貨と国際税務の両方に精通する税理士・柳澤賢仁氏が、仮想通貨の実態や税務上の課題等について分かりやすく解説します。

仮想通貨の保有で「含み益」・・・これは出国税の対象!?

11月26日、ビットコインが1BTC=100万円を超えましたね。

 

今回は前回に引き続き、気合いの入ったビットコイナーからよく相談される、

 

「いまのうちに日本を出国したらどうなりますかね?」

「非居住者になったらどうなりますかね?」

 

という質問に対する回答と、出国税(国外転出時課税制度)の取り扱いの説明からはじめます。その他の税金(相続税・法人税・消費税法)についても解説しますので、参考にしてください。

 

■仮想通貨は出国税(国外転出時課税制)の対象資産となるか?

 

結論から言うと、現状はならないはずです。

 

例えば2017年のお正月頃、とある人がモナコインを1MONA=3円のときに100万MONA(日本円で300万円)分買ったものの、日々の仕事が忙しくガチホ(一度も売却も交換もしないこと)していたとします。

 

久しぶりに「なんか仮想通貨界隈が騒がしいなあ」と値段を調べてみると、現時点でモナコインが1MONA=500円になっているではありませんか。100万MONA持っていますから、日本円に換算すると5億円。この場合、5億円−300万円=4億9700万円もの含み益があることになります。

 

前回解説したとおり、ここで「使用」や「交換」をすると課税されてしまいますが、日本を出国した場合はどうなるでしょうか?

 

国外には「譲渡益非課税」という税制の国があり、この譲渡益非課税の国で法定通貨に替えれば、その国では課税を免れることができます。

 

そして日本の税制では、日本国籍の日本人であったとしても、日本の「非居住者」の場合、国外源泉所得には課税が生じません(所得税法上の「非居住者」について解説するとキリがないのでここでは割愛しますが、居住者/非居住者の判定実務は非常に奥が深いので要注意です)。

 

しかし、こういった非居住者になることによる富裕層の租税回避を防止するために、2015年から「出国税(国外転出時課税制度)」という税制が施行されました。

 

今回も、国税庁ウェブサイトを確認しましょう。以下抜粋です。

 

<国外転出時課税制度の創設>

 

平成27年度税制改正により、国外転出時課税制度が創設され、平成27年7月1日以後に国外転出(国内に住所及び居所を有しないこととなることをいいます。)をする一定の居住者が1億円以上の対象資産を所有等している場合には、その対象資産の含み益に所得税及び復興特別所得税が課税されることとなりました。

 

出典:国税庁ウェブサイト

https://www.nta.go.jp/tetsuzuki/denshi-sonota/kokugai/01.htm

 

つまり、「対象資産」を持って出国すると含み益に課税するという税制です。

 

ポイントは、ビットコインやモナコインなどの仮想通貨が、この「対象資産」になるかどうかです。法令上は、所得税法第60条の2という条文に「出国税(国外転出時課税制度)」が定められていて、「対象資産」は「有価証券等」と規定されています。

 

ざっくり言うと、この「有価証券等」というのは、金融商品取引法に定義される有価証券や匿名組合出資持分のことなのですが、現時点では「収益分配型の暗号通貨」でない通常の仮想通貨であれば、出国税(国外転出時課税制度)の対象資産には該当しないはずです。

 

なお、仮想通貨トレーダーの方からは「ガチホなんてムリ! なんとか税金安くならないの?」という質問をいただくことがあります。

 

この場合でも、海外に住まいを移し、年内に住民票を除票すれば、居住者期間中の所得税(国税)は課税されますが、年明け1月1日を賦課基準日とする住民税(地方税)部分は課税されないはずです。

 

移住できない方は、きちんと日本で納税してください。

具体的な仮想通貨税制が存在しない相続税と法人税

■遺言状に仮想通貨の「秘密鍵」が書かれていた場合(相続税)

 

仮想通貨トレーダーは若い方が多いため相談事例はまだないのですが、遺言状に「秘密鍵」が書かれていたり、なんらかのきっかけで仮想通貨を相続したとします。仮想通貨は換金価値がありますから、当然「財産」と思われ、相続税の対象となる課税財産になるはずです。

 

この場合の相続税評価ですが、相続税財産評価基本通達を読むと、下記の記載があり、参考になります。以下抜粋です。

 

4-3(邦貨換算)

外貨建てによる財産及び国外にある財産の邦貨換算は、原則として、納税義務者の取引金融機関(中略)が公表する課税時期における最終の為替相場(中略)による。(後略)

 

5(評価方法の定めのない財産の評価)

この通達に評価方法の定めのない財産の価額は、この通達に定める評価方法に準じて評価する。

 

具体的な仮想通貨税制がまだない現時点では私見となってしまいますが、外貨建財産に準じて邦貨換算するのが妥当なのではないかと思います。

 

■マイニング事業をしている会社の場合(法人税)

 

前回解説した個人の場合と同様、「使用」したり「交換」した場合には「譲渡益」が顕在化し、課税所得になるはずです。

 

ここでは、「マイニング」事業をしている法人について考えてみましょう。

 

マイニングというのは、仮想通貨の運用のためにコンピュータ計算を走らせたことによる報酬と考えればいいと思うのですが、誰か相手がいるわけではなく、あくまでもプログラムから報酬を獲得するという点が特徴的です。

 

税金について考えると、価値あるものを生み出す作業なので、下記のような処理が考えられるかもしれません(私見です)。

 

①農業に似ている(相手なしで価値あるものを手に入れる点)と考えれば、いわゆる「収穫基準」に近い考え方で、獲得したとき、又はその日のレートで「(借方)資産/(貸方)益金」を計上し、そのかわりにマイニングマシーンの減価償却費や電気代等は損金に計上する。

 

②その仮想通貨の獲得に必要だったマイニングマシーンの減価償却費や電気代等は、いったん製造原価として計算し、その獲得した仮想通貨を売却するまで「仕掛品」としておく。

 

何が言いたいのかというと、マイニングした仮想通貨を一切売らなかった場合、収益認識せずに減価償却費や電気代等経費だけ計上できてしまうと、「節税商品」のようになってしまうので、それは難しいのではないかと言うことです。

 

いずれにせよ、明確な会計処理・税務処理の方法は具体的な法制化を待つことになります。

交換業者の努力で、消費税の課税は回避されることに

■消費税はどうなるの?

 

消費税は簡単です。仮想通貨交換業者のみなさん(取引所のみなさん)のロビー活動が功を奏したようで、平成29年7月1日から「非課税取引」となりました。

 

以下、例によって国税庁ウェブサイトの確認です。

 

<国税庁タックスアンサーNo.6201 非課税となる取引>

 

1 概要

消費税は、国内において事業者が事業として対価を得て行う取引を課税の対象としています。しかし、これらの取引であっても消費に負担を求める税としての性格から課税の対象としてなじまないものや社会政策的配慮から、課税しない非課税取引が定められています。

 

2 主な非課税取引

(3) 支払手段の譲渡(※)

銀行券、政府紙幣、小額紙幣、硬貨、小切手、約束手形などの譲渡

ただし、これらを収集品として譲渡する場合は非課税取引には当たりません。

(※) 平成29年7月1日以後、資金決済に関する法律第2条第5項に規定する仮想通貨の譲渡は非課税となります。

 

出典:国税庁ウェブサイト

https://www.nta.go.jp/taxanswer/shohi/6201.htm

 

前回解説した「資金決済法第2条第5項」の仮想通貨の定義がここでも出てきましたね。

 

消費税法でできるのですから、早く所得税法、法人税法、相続税法にもこの「資金決済法第2条第5項」を絡めて、具体的な取り扱いを定めてほしいと思います。

 

さて、次回は目の付け所が早い起業家からよく相談を受ける「ICOしたいんですけど!」「税金どうなりますかね?」という質問に対する回答と、可能であれば諸外国でのICO含め、ICO(Initial Coin Offering/仮想通貨による資金調達)の基礎知識に関しても簡単にお伝えできればと思います。

 

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