医師の相続対策で活用したい「不動産」と「MS法人」
開業医はキャッシュリッチになりやすく、現金をそのまま相続すると相続人にとってかなり不利な状況になってしまいます。この問題を解消する方法として、本連載では具体的な節税策を紹介していきます。
その効果的な方法は、大きく分けて「不動産」を活用するやり方と、「MS法人」を絡めるやり方の2通りがありますが、まずは不動産を活用した節税策を解説していきます。
相続が発生した際には、相続税額を計算するための資産の評価を行います。この評価額を減少させるよう工夫すれば課税対象になる資産額が少なくなり、節税が可能です。この〝評価減〟を行うために、まず知っておいていただきたいのが「小規模宅地等の特例」です。
相続税を計算する際、不動産の評価は土地と建物に分けて行いますが、そのうちの土地について評価減を得られるのが「小規模宅地等の特例」です。詳しく説明すると、居住用(自宅の敷地)であれば240㎡まで、特定事業用(商店や工場など自ら事業に用いている敷地)は400㎡までそれぞれ更地から8割減額、賃貸事業用(アパートなどの賃貸不動産が建っている土地)は200㎡まで5割減額という大幅な評価減を得られます。最大80%もの評価減になりますから、生前に適用条件と適用範囲を確認し、最大限利用できるように考えておくことが必要です。
具体的な数字で考えてみると、被相続人の自宅敷地が6000万円(30万円/㎡で200㎡)で、これに小規模宅地等の特例を適用した場合、
6000万円×80%=4800万円
が減額できます。
つまり、「自宅敷地については6000万円のところ、相続税の計算上は1200万円でいい」ということになるのです。土地の評価額が下がった分は、相続税の計算上は課税対象の資産が減ったのと同じことになり、税額が下がります。
改正でさらに使いやすくなった小規模宅地等の特例
さて、ここで特記したいのは、2015年1月1日以降に発生した相続については、小規模宅地等の特例の適用要件が変更され、より使いやすくなることです。改正前の段階では要件さえ満たせば、240㎡までの自宅敷地について、相続税評価を80%減額できました。それが改正後は330㎡まで拡大されます。
また、被相続人が個人開業している病院や診療所の建つ土地(特定事業用宅地)についての制度にも変更があります。改正前の制度では、自宅敷地240㎡と特定事業用宅地400㎡に調整計算を行い、両方を合わせて400㎡までしか適用できませんでした。それが、改正後は自宅敷地330㎡と特定事業用宅地400㎡の両方に限度面積いっぱいまで適用できるようになります。
つまり、自宅敷地330㎡と診療所の建つ土地400㎡があるとしたら、これまでは合計で400㎡の部分しか80%減ができませんでしたが、これからは730㎡全体に80%減が適用できるのです。
税制上のメリットが大きく、相続税を節税するために欠かせない特例ですので、生前対策の最初の段階で、適用できるかどうかの検討を進めましょう。ただし、適用するには一定の要件を満たす必要がありますので(下記囲み参照)、一度は専門家と一緒に条件の確認をしっかりと行ってください。
〈被相続人の自宅敷地についての要件〉
(1)配偶者が取得する。相続後すぐに売却しても構わない
(2)同居している親族が取得する。相続税の申告期限まで居住し、所有を継続する
(3)被相続人に同居している親族がいない場合で、別居の親族が取得する。ただし、別居の親族は相続開始から遡って3年間、自分や配偶者が所有する家に居住していないこと(たとえばマイホームを持たずに、賃貸アパート暮らしをしている子など。いわゆる「家なき子」)
※(3)の場合は、取得した家(被相続人の自宅)に居住していなくても、申告期限まで所有していれば適用が受けられる。ただ、「相続開始前3年間、家なき子でいる」という条件を意図的につくり出すのはかなり難しい。被相続人が独り暮らしの場合は、できれば相続が発生する前に、子と同居を始めておくなどの対策がとれると安心。
〈被相続人の事業用地についての要件〉
(1)事業を承継する親族が取得する。申告期限まで事業を続け、所有を継続する必要がある。事業を継続する親族がいない場合には適用できないので後継ぎ不在にならないよう注意