旧来の系列構造が崩れつつある「製造業」
前回に引き続き、今もっとも再編が活発化する9つの注目の業界について見ていきます。
【製造業業界】
日本の製造業では、アメリカやドイツに比べて大手企業と中小・中堅企業のROA(総資産利益率)差が大きいことが注目されています。自動車部品業界の「系列」に代表されるように、日本では中小・中堅企業は似たような商品を製造している企業が多いため、価格交渉力も収益性も極端に低いためです。
ただし、近年では旧来からの系列が崩れ始め、海外へ製造拠点を移した企業も多く、業界の構造自体が変化し始めています。また、部品を1点ずつ作るのではなくブロック単位で標準化したり、共通化するなどした部品の組み合わせで製品を設計するモジュール化も進んでいます。
製造業は、既存市場におけるシェアの獲得、コスト削減、利益率改善、海外市場への進出、新規技術・特許の獲得などの目的のため各業界での再編が盛んに行われています。
最近では、技術系の商社が自社商品を保有する目的のため製造業を買収する事例も多くなっています。ニッチでエッジの効いた製造業は価格競争力も高く、人気があります。また「酒蔵」を「居酒屋」が買収することにより居酒屋で提供する日本酒を自社商品に替え、一気に販売量を伸ばす事例なども成功事例です。技術力のある製造業と販売力のある卸(商社)・小売などはシナジー効果が高い組み合わせといえます。
少子化の中でシェア確保に向けた動きが進む「学習塾」
【学習塾業界】
学習塾業界は、2014年に発表された代々木ゼミナールの大幅な事業縮小が大きなトピックスでしたが、少子化により業界全体が縮小していく中でのシェア確保に向けたM&Aが活発化しています。
小資本でかつ家庭教師の延長といった個人事業主も多く、人材派遣業界などと同様、小規模事業者が圧倒的に多いのが業界の特徴です。河合塾などのような大規模な学習塾は主要都市に集中し、小規模な学習塾は地方を中心としています。
1991年に30万人程度いた浪人生は3分の1に減少。また、1993年では浪人生は受験生全体の34%と推計されていましたが、2015年にはわずか12%となり、浪人生という言葉自体が消滅しそうな情勢です。そのため大手予備校の収益モデルはここ10年ほどで崩れてしまいました。
現在、小学校受験から大学受験までの一貫体制による生徒の囲い込みや、個別指導や集団指導など幅広いニーズに対応するため、さらには英会話やスポーツスクールなどまで売り手市場を背景に盛んにM&Aが行われています。
売り手企業としては、大手企業と有力グループを形成することで教材・映像コンテンツ・講師などの充実が見込め、教務レベルがアップするというメリットがあります。一方、買い手企業としては、他地域へ進出することで新たな市場を獲得し、その地域独特のノウハウや受験対策などを取得できるというメリットがあります。
M&Aでスケールメリットを狙う「業務用食品卸売」
【業務用食品卸売業界】
卸売業や商社の業界は再編が活発な業界です。同業で提携し、仕入れの量を増やすことで仕入れ値が下がるというメリットを享受しやすい業界だからです。特に、業務用食品卸売業界は、再編が活発な業界ですが、その理由は外食産業が飽和状態にあるうえ、「就業者人口」の減少により市場規模は縮小傾向にあるからです。
業界の特徴として、今までは、地域密着型の中小規模の企業が各地に点在しており、小規模ながらも事業を継続することが可能でした。しかし、市場が成熟・衰退していく中で、大手企業がシェアを奪いに各地域に進出しています。大手企業とバッティングすることも増えてきており、商品を安く仕入れることができる大手企業には敵わない中小規模の企業が厳しい状況となってきています。
再編するメリットとして、大手・中堅の有力グループを形成することで、販売先の増加、仕入れ価格の交渉力や顧客に対するきめ細かい物流機能の充実が見込めます。スケールメリットを生かした、仕入価格の交渉力と各地域独自の商習慣のノウハウをスピーディに手にすることにより、収益力の高い企業として成長することができます。トーホー(兵庫県)などの業界トップクラスの業務用食品卸企業は人口数が多い関東圏にM&Aを用いて進出し、市場のパイを獲得するためM&Aを積極的に展開しています。