光の点で描くルノワール、面で捉えるセザンヌ
前回の続きです。
ちなみに画商のヴォラールは、セザンヌばかりでなく、ゴーギャンやゴッホ、ピカソ、マティスなど、後の巨匠が無名な頃から評価し、それぞれの個展を開催したことで知られる伝説的な画商です。
印象派を売り込んだ画商がデュラン=リュエルだとするならば、ポスト印象派の画家を支援した画商の代表はヴォラールでしょう。セザンヌばかりでなく、ピカソやルノワールもヴォラールの肖像画を描いています。
セザンヌの描いた肖像画と、ルノワールの描いた肖像画とを比べてみましょう。
セザンヌが描いたヴォラールは33歳、ルノワールが描いたのは42歳という年齢差もあるのでしょうが、まるで別人のようです。いったい、同じ人物を描いて、これだけの差が出るものでしょうか。
まるで現代のイラストレーションのようにメリハリをつけてデフォルメしたセザンヌの絵に比べると、印象派の一員として当時のフランス美術界に革命を起こしたルノワールの絵は古典的な肖像画のようです。
どちらがよいかは見る人の好みによるでしょうが、セザンヌの描くヴォラールには強い意志と思想が感じられます。印象派が目に映る光の点を描こうとしたのに対して、セザンヌはものの立体感を面で捉えていたので、ごつごつとした岩のような感覚を与えるのです。
1999年には、5500万ドルで落札された作品も
では、改めてセザンヌの『カード遊びをする人々』について触れましょう。
セザンヌが深く考えながら描いたことに鑑みると、左の人物の背の高さと、背が低く猫背気味の右の人物との対比に構成の妙が見えてきます。また、絵に出てくるカード・プレイヤーには、どことなくヴォラールの肖像画と同じような冷たさと意志の強さが感じられます。セザンヌが描くと、気軽なゲームではなく、大金を賭けたギャンブルのように見えてくるのです。
実はセザンヌの『カード遊びをする人々』は5枚の連作になっています。アメリカのバーンズ・コレクションとメトロポリタン美術館にある初めの2枚には、3人のプレイヤーと一人の見物人が描かれています。
後から描かれた3枚には、二人のプレイヤーしか描かれていません。恐らくそのほうが描くテーマにより合っていると考えたからでしょう。3枚のうち2枚はフランスのオルセー美術館とイギリスのコートールド・ギャラリーに収蔵されているため、個人コレクターが入手できるのは残りの1枚だけとなっています。そのため、価格も約200億円と高騰したのでしょう。
しかし、伝聞による個人間売買では絵の本当の価格はわかりません。オークションにおいてセザンヌの絵画にどれくらいの値段がつくのか、見てみましょう。
セザンヌの作品のオークション・レコードは1999年にニューヨークのサザビーズで落札された『カーテン、水差しと果物皿』で、5500万ドルでした。手数料を含めると、落札者の支払う金額は6050万ドル(約73億円)になります。