前回は、遅咲きの画家・セザンヌの生涯を紹介しました。今回は、セザンヌ絵画の魅力と価値を見ていきます。

キュビスム、フォーヴィスムに大きな影響を与える

1900年、画家のモーリス・ドニは『セザンヌ礼賛』というタイトルの作品を制作します。

 

絵の中央にはセザンヌの代表作である『果物入れ、グラス、りんご』があり、その周りをルドン、ボナール、セリュジエ、ドニ自身などの画家、画商ヴォラールなどが取り囲んで、セザンヌの作品を称賛している絵です。背景はヴォラールの画廊で、ゴーギャンとルノワールの絵が壁に掛かっています。

 

ゴーギャンはセザンヌ作品が好きで、この『果物入れ、グラス、りんご』も購入して愛蔵していただけでなく、自作の『マリー・デレアンの肖像』の背景にも登場させています。セザンヌはしばしば静物画を描いていますが、後期の作品に比べてこの絵は筆のタッチが粗く、まだ印象派風のスタイルが残っています。

 

『セザンヌ礼賛』は1901年のサロンに出品されましたが、評判は芳しくありませんでした。一部の芸術家を除けば、一般大衆からのセザンヌの評価は決して高くなかったのです。ドニは日記に「この絵は公衆の笑いを買っている」と無念そうに書き記しています。

 

しかし、現代ではセザンヌの価値を疑う人はいません。

 

ユーロ導入前の旧フラン紙幣には、画家の肖像画が二人だけ使われていました。それがドラクロワとセザンヌです。

 

ピカソやマティスをはじめとして、筆者著書『「値段」で読み解く魅惑のフランス近代絵画 』でも紹介する画家の多くがセザンヌの功績を称えています。キュビスムやフォーヴィスムといった運動に与えた影響の大きさから「近代絵画の父」と称されることもあります。

批評や思考の対象となるセザンヌの絵画

1906年のセザンヌの死後しばらくして、作品の価格が高騰し始めました。

 

ポスト印象派として時代の先端を切り拓いたとされるセザンヌの作品は、20世紀初頭の現代美術運動の中で高く評価され、またたくまにルノワールと並ぶ人気作家になったのです。

 

しかし、セザンヌとルノワールには大きな違いがあります。セザンヌの作品が批評や思考の対象になるのに対して、ルノワールの作品はただ愛されるだけ、という違いです。それは、セザンヌの作品が考え抜かれて描かれているのに対して、ルノワールの作品は対象を愛そうとしていることによる違いでもあります。

 

2012年、ロシアの国営通信社であるイタルタスが、セザンヌの5枚ある『カード遊びをする人々』のうちの1枚が相対取引でカタール王室に売られた、と報道しました。オークションではなく密室取引なので詳細な金額はわかりませんが、一説によれば2億5000万ドル(約200億円)以上の金額だったということです。

 

果たして、この絵に200億円以上の価値があるのでしょうか。

 

セザンヌはしばしば、素人から「下手な絵」だとか「良さがわからない」などと言われます。ぱっと見でその良さがわかるルノワールなどと比べると、確かに捉えどころがないような気もします。

 

当時の人にとっても、それは同じでした。セザンヌは1863年に26歳でサロンに初出品してから、何度も何度も落選を続けました。1882年、43歳にしてようやく最初で最後の入選をしますが、これは審査員にコネで頼んで推薦してもらったもので、正当な審査の結果ではありませんでした。そこまでしても、一度でいいからサロンで展示をしたかったのです。

 

印象派展に出品した時も、セザンヌの作品は笑われることが多かったようです。もちろん、印象派の作品はほとんどすべて嘲あざけりの対象となったのですが、中でもセザンヌの作品は目立っていました。友人のゾラだけは支持してくれましたが、そのゾラにしても「あと10年は落選を続けるだろう」と言ったくらいです。

本連載は、2017年4月28日刊行の書籍『「値段」で読み解く魅惑のフランス近代絵画 』から抜粋したものです。最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

「値段」で読み解く 魅惑のフランス近代絵画

「値段」で読み解く 魅惑のフランス近代絵画

髙橋 芳郎

幻冬舎メディアコンサルティング

ゴッホ、ピカソ、セザンヌ、ルノワール、ゴーギャン、モディリアーニ…“あの巨匠”の作品に、数十万円で買えるものがある!? 値付けの秘密を知り尽くしたベテラン画商が、フランス近代絵画の“新しい見方”を指南。作品の「値…

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