なぜ「8月開業」は避けるべきなのか?
開業までのスケジュールについてご説明していきましょう。ビル診(テナント開業)と戸建て開業で多少異なります。
どちらの形をとるにしても、最初は自分自身が開業の決意を固めるところからスタートします。その後、家族の同意を得ましょう。開業という人生の一大事を成し遂げるために、家族の協力は欠かせません。配偶者はもちろん、自分の実家、配偶者の実家などにも話を通し、できれば資金面での協力を頼めないかどうかも聞いてみる必要があります。
この段階では、よく税理士事務所や医療コンサルタントなどが開催している開業セミナーに参加したり、開業に関連する本を読んだりして、自分の中に開業のノウハウを培っていく時期でもあります。
続いて、目指す歯科医院の基本イメージを固めます。自分がどんな歯科医院をつくり上げたいのか、いわば理想の医院を思い描いていくのです。ここまでを、おおむね開業の2年〜1年半前には済ませておくといいでしょう。
ちなみに、これから開業する先生によく聞かれるのが、「開業に向いているのは何月?」という質問です。向いている時期を挙げるのはなかなか難しいですが、不向きといわれるタイミングをあえて挙げるとすれば8月は避けるべきです。
8月はお盆休みがあるため、8月1日から開業したとしても、すぐにお盆休みに突入してしまいます。そうなると、患者さんが集まりにくくなります。また、スタッフにも休みを与えないといけませんが、開業したばかりの歯科医院が休むのも悩みどころです。通常営業にした結果、スタッフが「お盆も休めないなんて・・・」と不満を募らせ、早々に歯科医院内の雰囲気が悪くなったという話も聞きます。
そうでなくとも、8月はただでさえ1年で一番暑く、よほどのことがない限り、歯の治療どころではないと考える人も多くなりがちです。こうした理由から、8月はあまりおすすめできません。
物件を契約したら「1年」以内の開業を目指す
歯科医院の構想が固まったら、物件探しを始めます。自分のイメージに合ったエリアを考え、なおかつ周囲の人口や年齢構成も調査します。いわゆる「診療圏調査」です。
開業に適した物件がスムーズに見つかれば、半年もあれば開業にこぎつけられますが、なかなか見つからないと、1年、2年と時間がかかってしまいます。勤務医を続けながら、何年も理想の物件を探し続けている先生も珍しくありません。
物件が見つかったら、「事業計画書」の作成です。事業計画書とは、資金計画や開業後のコンセプト、収支計画などをまとめたもので、いわば歯科医院の資金の設計図のようなものです。融資を受ける際、金融機関に提出します。
納得のいく物件が見つかったら、勤務先歯科医院の退職時期も調整していきましょう。よい物件が見つかったからといって、退職できなければ契約もできません。状況によっては強く慰留される可能性もあるので、勤務先の都合も考えて、早めに相談します。
辞めた後も、元の勤務先と良好な関係を築いておくことは重要です。開業後も困ったことがあれば相談できます。そのため、自分の都合だけでなく、自分がいなくなることで勤務先にどのような影響があるかをよく考えて行動すべきです。
物件を契約したら、その日から家賃が発生するので、もうのんびりしてはいられません。資金が潤沢で、めったにないよい物件とめぐり合ったときは、開業が1年先でも借りるかもしれませんが、まだ利益を生まない物件に家賃をひたすら払うことになるので、数百万円の負担が余分にかかります。それに、1年先には周囲の歯科医院の状況が変わり、「よい物件」ではなくなる可能性もあるため、よほどよい物件でなければ、物件だけ押さえておくというやり方はおすすめできません。
物件が決まったら、医療機器の購入内容決定、ロゴ・印刷物などの制作も開始します。続いて、そろそろスタッフも募集します。最低でも開業3〜2カ月前には募集を開始しましょう。工事完了後は、医療機器の設置、診療材料の搬入をします。
開業2〜1カ月前には保健所に届け出を出し、検査を受けます。ほかにも、社会保険事務所や福祉事務所、労働基準局などにも、必要に応じて書類を出すようにします。書類手続きを終えたところで、内覧会の1カ月前には開業広告を出し始め、内覧会を実施。院長自ら、内覧会に来てくださった方々とお話ししましょう(下図表1参照)。
[図表1]医院の開業スケジュール
すべてがそろったところで、ついに開業です。しかし、開業したら終わりではありません。税務署や都道府県税事務所にも、開業後なるべく早く必要書類を提出します(図表2参照)。
[図表2]開業前後に必要な書類や申請
ここまでやり遂げた段階で、ようやく一息つけますが、開業はゴールではなくスタート。気合いを入れて集患努力をすることが求められます。