安全な運用を優先するスイス、リヒテンシュタイン
プライベートバンキングで有名な国はスイスのほか、リヒテンシュタイン、シンガポール、英国などがあります。
国によるプライベートバンキングの違いは、主に運用に関する手法や考え方の違いによるものだといえます。リヒテンシュタインやスイスは、常に持続可能なアプローチで、通常は運用による損失を避けるため、利益は少なくとも安全なほうを選択していきます。
2008年の金融危機の際に、ロンドンやシンガポールの銀行が最も大きな損失を抱え、リヒテンシュタインやスイスではそれほど大きくなかったことからも両者の運用手法の違いがわかります。
リヒテンシュタインとスイスでも違いがあります。
最大の違いは、リヒテンシュタインがEEA(欧州経済地域)の一部であり、MIFID(EU域内における証券市場及び投資サービスを規定する規制のこと。2004年4月に採択され、2007年11月より国内法化された規制がEU加盟国で順次施行されている)のような欧州の法律があるという点です。
EEAに属していることで、リヒテンシュタインの銀行はいくつかのサービス(例えばファンドの販売)をよりスムーズに行うことができます。
また、リヒテンシュタインの銀行はいわゆるEUパスポートで、国境を越えたサービスを行うことができます。リヒテンシュタインの銀行は、いつでも欧州域内に支店を設けて活動することができるのです。
一例をあげれば、数年前にバンク・フリックは、ロンドンに支店を出すことができましたが、非常にスムーズでした。次は、ドイツのミュンヘンに支店を出すことを検討しています。
同じ欧州域内でも、展開の自由さやスピード感は異なる
一方、スイスには独自の法律があります。欧州の法律に近いものですが、スイスの銀行はより複雑な、それぞれの国との二国間協定によって規制されています。
そのため、スイスの銀行が欧州市場で活発に活動しようとすると、銀行自身が設立した独立企業による拠点が必要になります。スイスの銀行が欧州内に支店を増やそうとすれば、資金も時間も数倍かかるのです。
こうした、欧州域内における展開の自由さやスピード感が、スイスの銀行とリヒテンシュタインの銀行の大きな違いと言えるでしょう。
なお、リヒテンシュタインとスイスは長年にわたり親交の深い国同士です。1921年の関税条約によって両国の間では、物資のみならずサービスにおける貿易も非常に自由です。その後、1995年にリヒテンシュタインは欧州経済地域のメンバーになり、スイスはEUといわゆる二国間協定を行っていく道を選ぶという異なる方向に舵をきりました。
これによって、リヒテンシュタインとスイスは、EUに対するアプローチという点においては一定の違いを持つことになりましたが、両国間の関係はまったく変わりません。