「所有」と「経営」を分離しないパートナーシップ制
ここからは篠田が補足します。
バウマンのミヒャエル・クングによる解説にあったとおり、現在、本場のプライベートバンクの組織形態は、パートナーシップ、株式会社など多様化しています。
しかし、本来は創業家のファミリーが核となり、無限責任を負うパートナーが経営にあたるパートナーシップが基本です。
スイスでは特に、「パートナーシップ制をとり、1人以上のパートナーが無限責任を負う」ということが、「プライベートバンク」の定義となっています。
パートナーシップ制においては、上場している株式会社のように、所有と経営を分離することはありません。
プライベートバンクにとって最大の顧客は創業家であり、それゆえ創業家のメンバーが所有し、かつ経営にあたるのは、ごく当たり前のことです。そうであるからこそ、資産を後世に守り伝えるための長期的で堅実な運用をすることができるとも言えるでしょう。
少人数による経営に向く「無限責任」という制度
「パートナーシップ」とは、英米法において2人以上の者(パートナー)が金銭や役務等を出し合い、共同で事業を営む関係を指します。
歴史的には中世から、無限責任の組合員(パートナー)のみによって構成されるパートナーシップが慣習法で認められており、特に「ジェネラル・パートナーシップ」と呼ばれます。
無限責任とは、事業において損失が発生した場合、あらかじめ提供した金銭や役務に限らず、最後までパートナー個人がその返済を保証することです。パートナーは事業運営において中心的な役割も果たします。パートナーにとっては重い負担になりますが、取引する相手に対しての信用力は高くなります。
この組織形態は、家族や強い信頼関係にある仲間など、基本的に少人数による経営に向いています。規模の拡大を目指す場合にはおのずと限界があり、それがスイスにおいて伝統的なプライベートバンクが減少している理由の一つなのでしょう。
パートナーシップには、無限責任のジェネラル・パートナーと有限責任のリミテッド・パートナーから構成される「リミテッド・パートナーシップ」もあります。
こちらは、ジェネラル・パートナーが最低でも1人はいなくてはならず、かつ2人以上のパートナーがいなければなりません。
「スイスプライベートバンカーズ協会」の加盟条件の一つが、このリミテッド・パートナーシップ制をとっていることです。