前回は、会社の利益を操作する「粉飾」と「逆粉飾」の概要を取り上げました。今回は、 企業における「不適切会計」の内情を見ていきます。

紀元前から繰り返される、無くなることのない「粉飾」

突然ですが、皆さんはポリュビオスという人をご存じでしょうか? ポリュビオスは古代ギリシアの歴史家で『歴史』という本を書き、政体循環論という理論を展開しました。この理論は「政治秩序は循環し、政体は変化、移行するが、また出発点に戻る」というようなもので、政治は変化をしながらも元の状態に戻ると訴えています。要は、歴史は繰り返すということでしょうか。

 

そのポリュビオスはこのような趣旨の言葉も残しています。


“監査を徹底したところで、人間が正直になるわけではない。頭のいい人間は必ず帳簿を操作する”

 

なんと、人間は2000年以上も前から、粉飾(不正経理)を繰り返してきたのです。

 

監査をしたり、内部統制を強化したりしても、粉飾は発生しています。今後も、どんなに決まりや罰則を強化しても粉飾はなくならないでしょう。粉飾も歴史のように繰り返されるのでしょう。

 

よくメディア報道などで、粉飾があたかも悪の権化であるかのように叩かれていますが、日々、決算書を眺めている私からすれば、大なり小なり粉飾のない会社のほうが珍しいと思います。ビジネスの現場においては、粉飾というのは想像以上に根が深く、普遍的に存在しています。

毎年1〜2%の上場企業が「不適切会計」を開示

それを示唆するデータをいくつか挙げてみましょう。

 

図表は、東京商工リサーチが発表している「不適切な会計・経理を開示した上場企業調査」から作成したグラフです。日本国内の上場企業において、「不適切会計」に関するリリースを開示した企業数を集計したものです。

 

[図表]不適切会計のリリース社数

出典:東京商工リサーチ「不適切な会計・経理を開示した上場企業調査」
出典:東京商工リサーチ「不適切な会計・経理を開示した上場企業調査」

 

日本の上場企業数は、おおよそ3500社ですから、毎年1〜2%の企業が「不適切会計」を開示していることになります。もちろん、開示されていないものも存在するでしょう。

 

ここで注目してほしいのは、多い少ないはありますが、ゼロの年がないということです。

 

つまり、監査を受け、内部統制を強化している上場企業でも一定割合の企業が、開示した決算書(財務諸表)が適切ではなかったと発表しているのです。適正ではない決算書が毎年、慢性的に開示されていることになります。

 

ちなみに「不適切会計」とは、「不正会計」とイコールではありません。「不正会計」は意図的なものですが、「不適切会計」は、意図的か意図的であるかを問わない用語です。

 

とはいえ、その多くは「不正会計」にあたるものではないかと想像しています。東芝は不適切会計と報道されていましたが、第三者委員会の報告書を読むと、利益の操作が意図的に行われていたとしか読めない箇所が多数ありました。操作して過大に計上した利益を借金と認識して、後で返済する考えがあったと記載されていましたが、これは意図的に行っていたから出てきた話と考えます。

 

そういう意味で、不適切会計とされていても、実態としては粉飾(不正会計)である事例が多く含まれている可能性が十分にあると考えるべきではないでしょうか。

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