不測の事態に対してストックによる支払いで対応
前回の続きです。
続いて、ストックの支払い能力をチェックします。
推定粉飾額は3年間で、1392億円から、1899億円と年々増加しています。東芝の利益の過大計上額は、報告書によれば1562億円ですから、倒産予知の分析手法で見ると、ちょっと多めに見積もった計算になります。当たらずとも遠からずといったところでしょうか。
[図表]東芝の分析結果
推定粉飾額とストックの支払い能力額を比較すると、各期約18〜12%となっています。仮にこの推定粉飾額通りの粉飾があったとしても、支払い能力額の8割から9割は支払いに回せると考えられますので、企業規模と比べるとそう大きな推定粉飾額ではないと言えます。
粉飾を加味して修正したストックの支払い能力額を、売上(事業規模)と比較した場合でも、支払能力が売上の20〜30%あることになるので、十分とは言えないまでも不測の事態に対応する力が枯渇しているようには見えません。
実際、東芝は東芝メディカルシステムズというグループ会社をキヤノンに売却して、再建の原資にしています。まさに、不測の事態に対して、ストックによる支払いを実行した例と言えるでしょう。
以上の分析から、東芝は粉飾があったとしても倒産するほどの大きさではなかった、というのが私の見解です。
収益力は利益額と推定粉飾額の比較で測れるが・・・
前述の通り、この規模の会社が倒産すれば、日本経済に与える影響は相当大きいものになります。ですから仮に、東芝が本当に危険状態になったとしても、救済措置で倒産には至らないことが想定されますが、それを勘案しなくても倒産するほどの状態ではないという判断です。
ここでは、粉飾の大きさを、支払い能力に与える影響という観点で評価しました。これは、倒産するかしないかにフォーカスして分析を行うものです。しかし、もし株式投資を目的として決算書分析を行うのであれば、本書のような方法ではなく、別の視点での評価が必要になるでしょう。
たとえば、利益額と推定粉飾額を比較すれば、その会社の本質的な収益力を測ることができるかもしれません。東芝の場合、支払い能力額との比較では推定粉飾額の影響は小さいという評価になりましたが、利益と比較すると相当に大きな影響であったと言えます。
ただ、推定粉飾額はあくまでも理論的なもので、実態の粉飾額と異なることもあります。倒産予知の分析手法も、完璧というわけではありません。しかし、数多くの企業を分析してきた結果、「粉飾の可能性を勘案してその影響度を加味して分析する」、そういう視点を持つことは重要だと考えています。