融資が下りず、居酒屋で愚痴る徳川さんと中山さん
「融資を断るなんて、あの銀行マンは、本当にビジネスのことを何もわかってないよなあ」
行きつけの居酒屋のカウンターで大将にくだを巻いているのは元コンサルタントの徳川さん。大将は、渋い顔で愛想笑いをするしかありません。
そう、ここは徳川さんと中山さんが出会った居酒屋です。
徳川さんが大将にくどくどと愚痴を言っていると、飲み直したい気分になった中山さんが暖簾をくぐり、徳川さんの隣に座りました。お互いの存在に気づいた二人は顔を見合わせました。先に口を開いたのは徳川さん。
「おたくは、そば屋の・・・うまくいってる?」
「いえ、一緒に働いてくれるはずだった彼女に逃げられまして・・・そういえば、高級バーのほうは順調ですか?」
「実は、こっちもダメでさあ、銀行で融資を断られたんだよね」
「そうでしたか・・・やはり自分で商売をはじめるのは簡単ではありませんね」
「でも、俺はあきらめないから。銀行は他にもたくさんあるから、きっと元手ゼロでも2億円融資してくれるところはあるはずさ」
元手ゼロで2億円を貸してくれる銀行なんかあるはずないだろう・・・と中山さんは心の中でつぶやきましたが、自分と同じ環境に置かれている徳川さんのことに親近感を覚えました。
「きっとなんとかなりますよ。実は、僕もそば屋はあきらめていないんです。絶対に商売を成功させて、彼女を迎えに行くんです」
女性はシビアだから30歳を超えた男の夢についてはこないだろう・・・と徳川さんは心の中で毒をはきましたが、会社を辞めて、うまくいっていない者同士ということで中山さんを応援したい気持ちになりました。
その後、二人は意気投合。気づけば、酒を酌み交わしながら今後の夢を語り合っていました。
ひょんなことから、質屋の手伝いをすることに
二人が酔っぱらって盛り上がっていると、同じカウンター席に座っていた60代前後のおじさんが話しかけてきました。
「ちょっと、ちょっと」
二人が振り向くと、草野と名乗るおじさんは、こんな提案をしました。
「さっきからキミたちの話を聞いていたんじゃが、要するに、二人は今無職ということじゃよな? よかったらうちの店で働いてみないかの?」
「おじさん、無職とは失礼だな! 起業家予備軍と呼んでよ」と不機嫌そうな顔を見せた徳川さんを制して、中山さんが質問しました。
「お店ってどんな商売しているんですか?」
「うちは質屋じゃ。この商店街で40年続けておる」
「質屋? いまどきそんな商売儲からないぜ」と徳川さん。
「そんなことはないがのぉ。実は、明日からしばらく店を空けなきゃならんのじゃが、誰か店番をしてもらえると助かるんじゃ」
「面白そうじゃないですか。どうせしばらくは仕事ないし、商売の勉強にもなりそうですね。徳川さんも一緒にやりましょうよ」と乗り気なのは中山さん。
「なら、頼むことにしようかの。ほら、これが店の鍵じゃ」
「はい、ぜひよろしくお願いします!」と元気よく答える中山さんの隣で、徳川さんがボソッと言いました。
「しょうがねえな。付き合ってあげてもいいぜ」こうして二人は、商店街の質屋で働くことになったのです。