介護制度・サービスの知識を持ち、将来に備える
ここまで読んで、介護サービスにはさまざまな種類があり、いろいろな選択肢があることがお分かりいただけたと思います。漠然としたイメージがだんだんクリアになり、介護に対する不安もだいぶ薄れたのではないでしょうか。
介護に関する制度やサービスを正しく知り、資産状況をきちんと把握して、いざという時に備えて準備する。有益な情報を知ることは、悪質な事業者や不要な介護サービスを避け、払わなくていい無駄な出費を抑えることにもつながります。
そして本人や家族に合ったサービスを利用することで、介護破産におびえることなく、幸せな老後を過ごすことが十分可能になります。
介護破産を防ぎ、リハビリにもなる「自立を促す介護」
この連載の最後にひとつだけ、ぜひお話ししておきたいことがあります。
これまで日本の介護現場では、高齢者が病気や加齢により失った機能を「代わりに補ってあげる」という姿勢がよしとされてきました。リハビリなどで本人の持つ機能を高めるよりも、車いすやおむつなどを使って介助してあげるのが一般的だったのです。
しかし、それでは心身の機能低下を招き、かえって早く衰えてしまうことが分かり、現在は本人の持つ機能をできるかぎり生かすことが主流になってきています。
自立なき介護は、高齢者の生活の質を著しく低下させてしまうことにつながります。「してあげる」介護から、「できるだけ自分でしてもらう」介護へ。ただ生きるのではなく、よりよく生きる日々へ。それをサポートするのが介護の仕事だと、捉えられるようになってきました。
認知症の場合でも、介護サービスを利用しながら、本人の持っている機能を生かすため、また進行を少しでも遅らせるために、高齢者自らが自分でできることは自分でするということがますます大切になってきています。
このような流れは、高齢者がその人らしい充実した生活を送る上でも、個々人の介護費用の負担を大幅に削減して介護破産を防ぐ上でも、とてもよいことだと私は思います。元気になりたいという思いでリハビリを続けた末に、要介護度が下がり自立できた高齢者もいます。
とはいっても、足腰が痛いのに無理して買い物に出かけるという話ではありません。1日1回は外に出て近隣の人にあいさつする、週2回のリハビリに精を出す、週に1回は自分で食事の支度をしてみるなど、できるところからはじめることが大切です。
とくに男性の場合は、家事をいっさいしたことがないという人も多いのですが、配食サービスを毎日利用するだけでも結構なお金がかかってしまいます。まずは週3回の訪問介護でヘルパーにつくり方を教えてもらい、それ以外の日は本人が自炊を頑張ってみるのもいいでしょう。
無理強いはせず、本人の意思をなによりも優先しながら、家族が傍からサポートする姿勢が第一です。私たち介護に携わる事業者も、その人がその人らしく自立して生きていけるように、少しでもサポートしたいと思っています。
一人ひとりの資産状況は変えることができません。しかし、たとえかぎられた資産でも、利用できる制度や介護サービスについて情報収集を行い、最適な選択をすることは誰にでもできます。そしてそれは、その人の人生に計り知れない価値と充足感をもたらすはずです。