今回は、被相続人が「中華人民共和国国籍」の場合の準拠法について説明します。※不動産の相続や登記において、被相続人が外国人の場合、どんな手続きをとればよいのでしょうか? 本連載では、東京弁護士会法友会の編著書、『所有者不明の土地取得の手引―売買・相続・登記手続』(青林書院)の中から一部を抜粋し、不動産の相続について、相続人が外国人である場合や、被相続人が外国人である場合の対応について解説します。

相続人の本国法である「中国法」が準拠法に

概説

 

中華人民共和国(香港,マカオ,台湾を除く。以下「中国」という)国籍の方が死亡し,日本の不動産が遺産となる場合,通則法36条により被相続人の本国法である中国法が準拠法となる。

 

もっとも,中華人民共和国渉外民事関係法律適用法の第4章に,渉外相続に関する規定があり,同法31条は,「法定相続は,被相続人死亡時の経常的居所地の法律を適用するが,不動産の法定相続は,不動産所在地の法律を適用する。」と規定している。したがって,日本の不動産の相続については日本法に反致する。

 

そのため中国籍の方を被相続人とする不動産の相続登記については,渉外民事関係法律適用法を示すことによって,日本法に従って相続登記が受理される(ものと思われる)。
また,渉外民事関係法律適用法の,「被相続人死亡時の経常的居所地の法律を適用する」との規定の,「経常的居所地」とは,いわゆる「常居所地」とさすものと思われるから,中国籍の方が被相続人となる相続であっても,日本に最後の常居所地がある場合は,日本法が適用される。そのため日本国内に遺産がある限り,基本的には日本人とほぼ同じように手続を進めることができると思われる。

 

なお,渉外民事関係法律適用法は,比較的新しい法律で,2011年4月1日施行とされているが,それ以前に発生した相続については,中国の相続法にあたる中華人民共和国継承法36条に従って処理されるものと思われる。同法36条1項は,「中国公民が中華人民共和国の国外にある遺産を相続する(中略)ときは(中略)不動産については不動産所在地の法律を適用する。」と規定しており,また同条2項は,「外国人が(中略)中華人民共和国の国外にある中国公民の遺産を相続するときは,(中略)不動産については不動産所在地の法律を適用する。」と規定している。これにより,日本の不動産の相続は,被相続人が中国人であっても,かつ相続人の国籍にかかわらず,日本法が適用される。したがって渉外民事関係法律適用法の施行前であっても同じ結果となる。

 

また,中華人民共和国継承法36条は,動産については,「被相続人の住所地の法律を適用」すると規定しているため,被相続人の最後の住所地が日本であれば,やはり日本法が適用される。

「被相続人の子の配偶者」も相続人となることがある

中華人民共和国継承法の内容について若干,検討する。同法は,法定相続順位として,第1順位を配偶者,子,父母,第2順位を兄弟姉妹,祖父母,外祖父母とする(同法10条1項)。もっとも「妻が亡夫の,夫が亡妻の父・母に対して主たる扶養義務を尽くした場合は,その第1順位相続人となる。」(同法12条)との規定があり,日本法では相続人とならない被相続人の子の配偶者も相続人となることがあるので注意を要する。

 

 調査方法

 

JETRO(日本貿易振興機構)がそのウェブサイトに,日本企業の関心が高いと思われる分野の中国の法律について,その日本語訳を掲載している。中華人民共和国渉外民事関係法律適用法も全文が掲載されている上,簡単な説明文も掲載されている。
また中華人民共和国継承法の日本語訳は,加藤美穂子著『中国家族法[婚姻・養子・相続]問答解説』(日本加除出版,2008)で確認することができる。

本連載は、2017年5月9日刊行の書籍、『所有者不明の土地取得の手引―売買・相続・登録手続』から抜粋したものです。稀にその後の税制改正等、最新の内容には一部対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

所有者不明の土地取引の手引 ―売買・相続・登記手続

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東京弁護士会法友会

青林書院

全国に点在する所有者不明土地。手続上の諸問題につき、相続、売買、登記、税務等の実務上の論点を整理した手引の決定版! 取得したい土地の所有者の相続人が多数の場合や相続人の中に外国人がいる場合の対策についても解説。

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