「相続財産管理人」の選任を認めた例
相続財産管理人が選任される場合
日本法が準拠法となる場合に,相続人がいることが明らかでない場合や相続人がいない場合は,利害関係人等の請求に基づいて裁判所は相続財産管理人を選任する(民952条1項)。他方,被相続人が外国人であり反致しない場合は,日本法が準拠法とならないから,相続財産管理人を選任できないようにも思える。
しかし,それでは,当該不動産について適切な管理,清算をすることができず,不都合である。
そこで,実務では,管理財産の所在地たる日本民法が準拠法であるとして日本法に従って相続財産管理人の選任を認めた例がある。
昭和41年9月26日東京家裁昭和41(家)3381号相続財産管理人選任事件で,東京家裁は,準拠法は被相続人の本国法であるが,相続人のあることが不分明である場合に,相続財産をいかに管理し相続債権者等のため清算をいかに行うか及び相続人の不存在が確定した場合に,相続財産が何人に帰属するかの問題については法例10条(通則法13条)(※1)の規定の精神に従って,管理財産の所在地法を準拠法と解するのが相当であると思料するとして,相続財産の管理及び相続債権者等のための清算をいかに行うかについては,管理財産の所在地たる日本民法が準拠法であるといわなければならないと判断している。
なお,この審判例も相続人のあることが不分明であるかどうかについては,被相続人の本国法によるべきであるとしており,家裁調査官の調査報告書や申立人代理人の上申書によれば,被相続人の国籍国大使館を通じて,被相続人死亡後本国の所轄庁(この事案ではイラン国司法省)に連絡を取り,本国内において相続人探索のための公告手続を取っている模様であるが,本国法に基づく相続人のあることが不分明であることが認められるとしているから,誰が相続人となるかについては本国法に従っているし,不分明であることについても,本国における調査を実施しても相続人が不分明のままだったことを前提としている。
以上より,不動産の所有名義人となっている外国人が死亡し,相続人が明らかでない場合,まず当該外国人の国籍に従った相続人を特定し,その相続人の所在等を調査し,その結果,相続人が不分明であるときは,日本法に従って相続財産管理人の選任を家裁に申し立てることとなる(※2)。
日本の裁判所が「失踪宣告」をするケース
特別縁故者
日本に居住し,日本で死亡した外国人について,相続人の範囲やその順位,その他相続人に関する事項については,相続の準拠法によることになる。相続人がいないということが確認された場合は,遺産は国庫に帰属するのか,あるいは相続人以外の者(特別縁故者)に帰属するのか,についてどこの国の法律を準拠法とするのかということがさらに問題となる。
「相続人不明の場合の処理につき,判例は,我が国にある外国人の遺産について相続人が不存在である場合に,相続準拠法が適用されるのは,相続人の範囲,相続の放棄・承認,相続分等相続自体に関する事項に限られ,相続人が不存在の場合の財産の帰属および遺産の管理清算については,相続財産所在地法である日本法を適用するという現実的な対応がとられている。」とされている(前掲藤原・258頁)。
民法958条の3(特別縁故者に対する相続財産の分与)と同種の規定が被相続人の本国法にない場合,特別縁故者を救済するために,日本法が準拠法となると解釈すべきであり,上記の実務は妥当と考える。下級審の裁判例では,特別縁故者(内縁の妻)を救済しているものが複数あるようである。
失踪宣告
通則法6条1項は,「裁判所は,不在者が生存していたと認められる最後の時点において,不在者が日本に住所を有していたとき又は日本の国籍を有していたときは,日本法により,失踪の宣告をすることができる。」と規定している。したがって,日本に住所を有する外国人が失踪した場合,日本の裁判所が失踪宣告をすることができる。また同条2項は,「前項に規定する場合に該当しないときであっても,裁判所は,不在者の財産が日本に在るときはその財産についてのみ,不在者に関する法律関係が日本法によるべきときその他法律関係の性質,当事者の住所又は国籍その他の事情に照らして日本に関係があるときはその法律関係についてのみ,日本法により,失踪の宣告をすることができる。」と規定している。したがって,日本国内の不動産の所有者が外国人で,日本に住所を有しない場合であっても,日本の裁判所が日本法により失踪の宣告をすることができることになる。
公序良俗,条理
通則法42条は,「外国法によるべき場合において,その規定の適用が公の秩序又は善良の風俗に反するときは,これを適用しない。」と規定している。
したがって,準拠法が外国法となる場合でも当該外国法が公序良俗に反する場合は,その適用を排除して,不当,不合理な結果を回避することができる。
また準拠法となる本国法が不明であるときなどは,実務上,条理に従って処理されている。
※1 通則法13条1項は,「動産又は不動産に関する物権及びその他の登記をすべき権利は,その目的物の所在地法による。」と規定している。
※2 東京家裁に現在でも同様の運用がなされているのか問い合わせたところ,結論について明確な回答はなく,ただ申立てがあれば受け付けはするだろうとのことだった。同種の事案は,今のところ多くはないものと思われる。