当該外国人の本国法の相続に関する法制を把握する
準拠法の確認
日本に不動産を所有する外国人が死亡した場合, 相続の開始, 相続人の範囲・順位, 法定相続分といった問題について,法の適用に関する通則法36条により,日本の民法ではなく,当該外国人の本国法の相続に関する法制を把握し,それに従って相続の問題を処理しなければならない。
当該外国人の本国法によれば,例えば不動産の相続に関する準拠法は,不動産所在地の法律が適用されるとされている場合には,日本の不動産の相続については,結局,日本法が準拠法となる。その場合は被相続人が日本人の場合と同様に日本の法律に従って不動産の相続や登記の問題を処理すればよい。また当該外国人の本国法によれば,被相続人の死亡時の住所地の法律が適用されるとされている場合で当該外国人の死亡時の住所地が日本である場合は,日本法が適用される(※1)。
遺産分割協議・遺産分割調停の有効性
⑴準拠法
相続の準拠法が日本法である限り,被相続人が日本人の場合と同じであるが,準拠法が外国法であり,当該準拠法によると相続人間の協議による遺産分割に関する定めがない場合(※2)に,相続人間で遺産分割協議書を作成した場合,その有効性が問題となる。
また,同様に当該外国法に遺産分割調停に関する定めがない場合に,日本の裁判所に遺産分割調停の裁判管轄権があるのか(申立てが認められるか,及び申立てが認められて調停調書が作成された場合,その調書が有効となるか)が問題となる。
不動産に関しては,そのような遺産分割協議書や遺産分割調停調書を使って,相続を原因とする所有権移転登記ができるかという形で問題に直面する。
まず遺産分割協議書についてであるが,登記申請の際,法務局で準拠法の内容を明らかにするように求められ,当該外国法が協議による遺産分割を認めていることを明らかにする必要があると思われる。
他方,遺産分割調停調書の場合は,裁判所で遺産分割調停の可否については検討,確認されているという前提があり,登記申請の場面で当該外国法の内容を明らかにする必要はないものと思われる。
管理清算主義を採用している国の場合は・・・
⑵管理清算主義国
管理清算主義を採用している国の法律が準拠法となる場合は,そもそも調停などによる遺産分割を予定していないので,遺産分割調停や審判の申立てをすることができず,仮に日本の裁判所に申立てがなされたとしても,裁判所は申立てを却下すべきであるとされている(藤原勇喜『渉外不動産登記〔新訂版〕』276頁(テイハン,2014),司法研修所編『渉外家事・人事訴訟事件の審理に関する研究』169頁(法曹会,2010))。東京家裁に問い合わせたところ,近年,そのようなケースの申立てはないとのことであり,申立てがあったとしても却下するだろうとのことであった。
もっとも,管理清算主義を採用している国では,いわゆる相続分割主義(相続される財産を動産等と不動産とに分け,動産等は被相続人の本国法により,不動産はそれが所在する国の法律によるという考え方)を採用していることが多く(対立する考え方は相続統一主義といい日本法は相続統一主義),不動産については当該不動産の所在地法を準拠法としていることが多いとのことであり,そうすると不動産については,日本法が準拠法となり,協議による遺産分割も可能となるものと思われる。
準拠法となる外国法が管理清算主義を採用しており,日本法に反致しない場合は,遺産管理人等を選任しなければならないが,遺言がなく,あるいは遺言があっても遺言執行者が指定されていない場合,日本法では遺産管理人に関する規定がないことから,遺産管理人を誰がどのような手続で選任するのか,日本の裁判所は遺産管理を行う者を選任できるのかが問題となる。
この点について,相続財産管理人の選任手続を修正して,日本の裁判所が遺産管理人を選任できるとされている(山北英仁『渉外不動産登記の法律と実務』72頁(日本加除出版,2014))。
※1 何をもって「住所地」とするかについては,単純な問題ではないから,当該外国人の本国法の規定内容や住所地の概念,実際の住所の状況等を検討し,反致が認められるケースかどうか見極める必要があると思われる。
※2 英米法系の国では,相続手続についていわゆる管理清算主義を採用している。すなわち,被相続人の遺産は直接,相続人に帰属するのではなく,遺言執行者又は遺産管理人に一旦帰属し,遺言執行者や遺産管理人が消極財産を清算した上で,積極財産がある場合に,それを相続人等に帰属させるという仕組みが採用されており,相続人同士が協議して遺産を分割するということを予定していない。