今回は、日中の共存共栄関係のカギとなる、米国新政権の位置付けを考察します。※本連載は、経済産業審議官、内閣官房参与などを歴任した豊田正和氏と、元海上自衛官で北京の日本大使館で防衛駐在官を務めた小原凡司氏の共著書『曲がり角に立つ中国――トランプ政権と日中関係のゆくえ』(NTT出版)の中から一部を抜粋し、成長減速という曲がり角に立つ隣国「中国」と賢く付き合う道を探ります。

歴史問題等を乗り越え、関係構築するのが理想だが・・・

経済的のみならず、社会的にも政治的にも曲がり角にある中国と、未来永劫の隣国である日本は、今後どう付き合っていったらいいのだろうか。しかも、政策の方向性がきわめて予測困難な米国新政権の下で。

 

まずは、経済関係において共存共栄関係の構築が重要だ。尖閣諸島を国有化したときに、中国で生じた反日デモや一部の日本企業施設への破壊行動等の衝撃的映像をテレビで見た記憶からすると、それは容易ではない。

 

しかし、さまざまな顔を持つ中国自身が、いま改革のさ中にあり、悩める中国であること、日中経済関係は貿易・投資・人的交流面において緊密化を深めていることなどを考えれば、共存共栄関係を作ることが双方にとって利益であることは言うまでもない。歴史問題からくる複雑な日中関係を冷静に見詰めながらだが。

政策の予想が困難な「トランプ政権」

それでは、具体的にどうするのか。

 

その前提としての、米国の新政権の位置付けは、どのようなものか。クリントンが大統領に就任していれば、恐らく、これまでの米国の政策の延長線上で考えればよかった。トランプの選挙公約は極端なものが多いが、当選後は、「移民制限」、「メキシコ国境における壁の建設」、「NAFTAの見直し」、「TPPからの離脱」など次々に大統領令を発出しているが、司法の判断や予算に係る議会の承認権限がその効果的実現を阻んでいる。

 

しかも、ようやく閣僚については議会承認が進み、主要閣僚は決まりつつあるものの、四〇〇〇人を超える政治任命ポストについては候補の選定も遅延しており、当面、数千人の職員が前政権から暫定的に居残る状況だ。したがって新政権の政策は必ずしも明らかでなく、さまざまな面で予想困難な状況にある。

 

二〇一七年二月中旬の日米首脳会談後、場所をフロリダに移して安倍総理とトランプ大統領は、ゴルフも楽しみながら、二日間近く互いの信頼関係の醸成に努めたとされる。共同声明でも日米同盟関係の重要性がうたわれたが、フロリダ滞在の最後のころに北朝鮮がミサイル発射実験を行い、これを強く非難する安倍総理の記者会見にトランプ大統領が進んで参加し、短いながら日本を支持する発言をしたことは、同盟関係の強さを示すものであり、日本の人々をほっとさせた。

 

しかし、日米間の経済領域に係る問題の解決は、マイク・ペンス副大統領と麻生副総理が議長となる閣僚レベルの会議に任せられたわけだが、四月のペンス副大統領、ウィルバー・ロス商務長官の訪日後も、その進むべき方向は依然、不透明である、日中の共存共栄関係を構築するうえでの一つの前提として、米新政権の政策の方向性を整理しておきたい。

 

この記事は次回に続きます。

本連載は、2017年7月6日刊行の書籍『曲がり角に立つ中国――トランプ政権と日中関係のゆくえ』から抜粋したものです。その後の改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

曲がり角に立つ中国 トランプ政権と日中関係のゆくえ

曲がり角に立つ中国 トランプ政権と日中関係のゆくえ

豊田 正和,小原 凡司

NTT出版

未来永劫の“永遠の隣国”中国といかに賢く付き合うか。 中国は高度成長がおわりを迎え、社会に不満が蓄積し、諸外国とは不協和音がひびき、大きな曲がり角に立っている。さらに、米国にトランプ政権が誕生し、従来の枠組みの…

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