他のホールにはない「年配層向けの施策」だったが…
B店の会議では、しばしば「差別化」が議題となりました。他のホールにはない特徴を打ち出して遊技客を集めようと店長が提案したのです。
ジリ貧ホールは常に「予算不足」「人手不足」「設備不足」というマイナス要素を背負っています。同じ商圏では戦力が不足している分不利となるので、「差別化」によって自店が有利に勝負できる他の戦力を見つけようというのが店長の考えでした。
店長が実行したものは下記のようなものです。
●圏内に見当たらない貸玉料金(2.5円など)を導入する
●低交換個数に変えて、他ホールには真似のできない回転数で営業する
●商圏内には導入されていない機種を導入する
●店内装飾や販促物のデザインを落ち着いたものに変え、BGMに年配層向けの音楽を流す
ところが結果は惨敗でした。稼働がさらに落ち込み、危機を感じるレベルにまで低下したのです。年配層向けの施策もお年寄りのファンを増やすことにはつながらず、若年層のファンが離れただけでした。たしかに「年配層の割合」は増加しましたが、年配層の比率が上がったというだけのことで全体の客数は減ってしまったのです。
自店の「強み」を活かさなければ成功しない
B店のケースでは、そもそも差別化を目指したことが間違いでした。「ポジショニング戦略」に照らしてみれば、ジリ貧のB店は明らかに「フォロワー」です。「フォロワー」が取るべき戦略は「リーダーへの模倣追随」そして「リスク回避」というのがセオリーとされています。
「差別化」という戦略を選んでいいのは「チャレンジャー」や「ニッチャー」であり、「フォロワー」にはその戦略を遂行するだけの能力がありません。
たとえば商圏内に見当たらない2.5円台に遊技客を呼び込むには、「1円でも4円でもない2.5円はなかなかいいな」と魅力を感じてくれる客層を自力で開拓する必要があります。ところが「フォロワー」であるB店の影響力は小さいので、独力で商圏に「2.5円ファン」を増やすことは難しいのです。
低交換個数や商圏にない機種についても同じです、大型ホールであれば魅力を訴求してファン層を独自開拓できますが、B店に新しいファン層を作り出す力はありません。結果としてこれまでB店を支持してきた遊技客が離れてしまい、稼働の落ち込みをもたらしたのです。
年配層のファンを集めようとした試みについては、取り組みのまずさが指摘されます。年配のパチンコファンを取り込もうとして行った施策は年配層の声を集め分析して作ったものではありませんでした。「落ち着いたデザインのインテリアや販促物が好き」というのはホール側が勝手に想定したステレオタイプの年配者像です。
実際には派手な装飾の大型ホールにも年配者はたくさんいます。中途半端な施策は年配層の取り込みに至らず、若年層が行きたくないと感じるホールを作っただけでした。
「他ホールと異なる」だけでは戦略として成り立ちません。差別化とは「強み」を活かす策でなければ成功しないのです。B店では本当の差別化を実現するため、あらためて自店の状況を分析し、「強み」を見つけることから取り組みを始めました。