今回は、介護事業の差別化を実現するための「情報収集」のポイントを見ていきます。※本連載は、社会保険労務士、社会福祉士の資格を活かしたコンサルタントで、「福祉介護業界」に特化した人事制度や労務管理へのアドバイスを全国の顧問先で行う、株式会社シンクアクト代表・志賀弘幸氏の著書、『ビジネスとしての介護施設』(時事通信出版局)の中から一部を抜粋し、介護施設の経営改善策を解説していきます。

制度改正前に発信される情報で、ある程度の予測が可能

前回の続きです。

 

では、事業者はどのような点に注意する必要があるのでしょうか。地域から選ばれている事業者の成功事例に見ることができます。

 

例えば直近2015年4月の改正時にも、「加算」に関する改正があり、事業者のみなさんはその対応に追われたのではないかと思います。実際、2015年改正においては、デイサービスの「認知症加算」や「中重度者ケア体制加算」など新しい加算が新設されました。

 

実はこの加算については、改正前からさまざまな情報が発信されていました。内閣府の経済財政諮問会議においては数年前から、今後急増することが予測される認知症対策についての議論がありましたし、特養の原則介護度3以上の利用限定などの議論から、中重度の利用者に対する体制の整備が必要であると示されていました。

 

経営者にとって、ここ数年の介護報酬改定は非常に厳しいものとなっていますが、実はその予測はある程度可能なのです。成功している事業者はその辺りの動きを敏感に察知しています。そのアンテナは厚生労働省だけではなく、内閣府、総務省、経済産業省など、介護を取り巻く周辺分野に関連する省庁からの情報発信にも向けられています。

 

例えば内閣府の経済財政諮問会議では、経済・財政・金融など今後の方針が話し合われており、福祉・介護に関することが議題にのぼることも多いので、このような資料を読んでおくだけでも今後の自社の方向性を検討することに役立ちます。

福祉・介護業界においても「中長期経営計画」は必須

他にも経済産業省では、平成28年3月24日に「将来の介護需要に即した介護サービス提供に関する研究会」の報告書を公表しています。ここでは「介護ロボット」「保険外サービス」「介護現場の効率化」など、今後の介護分野における課題になる研究や分析がなされています。また国土交通省では「サービス付き高齢者向け住宅」の取り組み施策が検討分析されています。

 

このように、多方面から情報収集するためのアンテナの感度を磨くことは、介護業界のみならず、経営戦略上は当然しなければならないことです。

 

そしてその予測は実際の経営計画や事業計画にも反映することにもなります。いわゆる中長期経営計画の作成も、このようなマクロ的な視点なくしてはできません。3年から5年後の経営シミュレーションをしているかどうかが非常に重要になってきます。中長期経営計画に関しては、福祉サービス第三者評価でも、その策定の有無やその周知の度合いなどが評価項目になっています。まさに福祉・介護業界においても、中長期の経営計画が必須になっていることがわかります。

 

ルールや制度に縛られている事業だからこそ、差別化をしにくい業界でもあります。今後の予測を重視したマネジメント(PDCA)の実践が差別化になることは間違いありません。

ビジネスとしての介護施設

ビジネスとしての介護施設

志賀 弘幸

時事通信出版局

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