「のびのびと本当によく遊ばせました」
北陸の小さな町に、情緒豊かに育った三つ子がいた。父親はクリニックを経営する中山敏行、母親は専業主婦の春子。医学部に進学した三つ子は、長女・逢香(あいか)、次女・舞香(まいか)、末っ子で長男の大輝(だいき)だ。
「3人揃って医学部へ」と聞くと、さぞや小さい頃から医師を目指して英才教育を施してきたのだろうと想像してしまう。しかし、たくさんの自然が残る北陸で、3人はどろんこになりながらのびのびと育った。小学校、中学校も、地元の公立学校に通っている。
性格的にも、ハイレベルな受験を勝ち抜いてきたとはとても思えない。控えめで優しく、相手を思いやり、争いごとなどの問題が発生すれば自分が身を引くタイプだ。決して、他人を押しのけて、自分が前へ出るタイプではない。
父親の敏行は、子育てをふり返って
「のびのびと本当によく遊ばせました。子育ては、植物を育てるのと同じだと思います。怒っても、叱っても、意味がない。日当たりのよい場所に植えてさえやれば、毎日せっせと水をやり、まじめに語りかけるだけで、植物はすくすくと伸びます。私はそのように育ててきました」
と言う。人を思いやる性格は、ここから培われてきたのかもしれない。春子も、
「やはり、三つ子の子育ては大変でした。ひとりだとおとなしくしているときでも、3人寄れば違った結果になります。それでも、3人を分け隔てなく、何でも平等にしてきました。そして、やりたいと言ったことは何でも体験させてきました」
とふり返る。3人が助け合うのは、平等に育てられたからだろう。
全員が1浪で医学部に合格
三つ子は、父親の背中を見るうち、医師を志すようになる。現役合格こそ叶わなかったものの、揃って医系予備校に通い、全員が1浪で合格した。
心優しい3人が、どうして熾烈な戦いに競り勝って、医学部に合格できたのだろうか?他人に蹴落とされて、辛い思いはしなかったのだろうか?
医学部合格までの道のりには、医学部受験のドラマに加え、三つ子ならではのドラマがある。助け合いと思いやり、ライバルとしての苦しみや葛藤だ。相手を思いやるがために、自分が苦しむこともある。それを見つめる両親の苦労も、相当なものに違いない。そんな1年を経て、全員が医学部に合格したとき、喜びは何倍にもなった。
この話は次回に続きます。