「みなし相続財産」の取得があれば相続税の納税義務者に
前回の続きです。
オ 相続税の申告か贈与税の申告かを考える
さて、ここでCさんは贈与税の申告をすべきか相続税の申告をすべきかについて考えてみましょう。
<考え方の指針>
相続税の納税義務者は相続または遺贈によって財産を取得した個人です(相続税法1条の3・1項1号ないし3号)。Cさんは生前贈与として4億円を取得しましたが、相続により財産は取得していません。そのため、Cさんは相続により財産を取得した個人には該当せず、「相続税の納税義務者ではない」と思うかもしれません。
しかし、被相続人の死亡を起因として生ずる保険金や退職手当金などは、実質的には相続財産であり、課税の公平の見地から、「財産」の中には、これらの「みなし相続財産」(注1)も含まれるとされています。
注1 みなし相続財産
法的には被相続人から相続等により取得したものではないが、実質的には相続等により取得した財産と同様の経済的効果を持つものがあります。相続税法では、課税の公平を図る見地から、みなし相続財産として課税の対象としています(相続税法3条)。
みなし相続財産の具体例に、①生命保険等、②退職手当金等などがあります。
つまり、もしCさんが生命保険金などのみなし相続財産を取得していた場合には、相続税の納税義務者となります。その場合には、4億円を3年以内に贈与により取得した財産として加算した上で、「相続税の申告」をすることになります。
このように、相続税の申告をするか贈与税の申告をするかは、Cさんが生命保険金などのみなし相続財産も含めて「財産を相続したかどうか」で決まります。全く相続していない場合には、「贈与税の申告」となります。ただし、贈与に伴い相続時精算課税制度の適用を選択した場合は、相続税の申告をしなければなりません(相続税法1条の3・1第4号)。
これらの点を勘違いして、被相続人の死亡に伴い、相続税の申告をしていても贈与税の申告をしなかった場合は、後日正しい申告をやり直さなければなりません。そして、相続税の申告を行い納付していたとしても、正しい贈与税の申告をするまでの間の延滞税や加算税まで賦課されることがありますので注意が必要です。
相続税の延滞税や無申告加算税にも連帯納付義務が…
カ 和解について考える
A子さんは、Cさんとの裁判の長期化を望まず、大幅な譲歩(1億5000万円程度を渡すこと)をして和解してもいいと考えるようになりました。A子さんは、どんなことに注意すべきでしょうか。
【A子さんはどうしたか】
A子さんは、Cさんがこれまで贈与を受けた分(4億)について、きちんと申告し納税しているのか再度税務署に確認しようとしました。もし未払いの分があれば、今回支払う予定の1億5000万円は贈与税の未納分に充当してもらいたいと考えていたからです。
しかし、税務署の職員は、Cさんの申告や納付状況について聞いても、「個人情報に関わることで教えられない」として、一切教えようとしませんでした。
そこで、A子さんは、税理士さんに「もし和解をしてCさんに1億5000万円払った場合に、相続財産が1億5000万円減るので更正の請求を行いたいが、それが認められるかどうかについて」交渉を頼みました。税理士さんは税務署を訪問し、事前相談をしました。これは、「裁判上の和解により1億5000万円を支払った場合に、相続財産が減少したという理由で国税通則法23条2項1号に基づいて更正の請求ができるか」という問題です。税務署職員は更正の請求を認めると事実上約束してくれました。
これらの手続も無事終了し、A子さんは、これでこの件についてはひとまず一段落したとほっとしました。ところが、予期しないことが起こったのです。
キ 突然の税務調査と催促処分
平成21年9月初旬頃に、A子さんとCさんに対し、一斉に大阪国税局による税務調査が行われました。A子さんも厳しい調査の対象となりました。そして、課税庁はCさんに対して贈与税について期限後申告を迫ったようです。
A子さんは、Cさんがどのような申告書を提出したのか知らされないまま、翌平成22年1月中頃にBさんの連帯納付義務の承継処分を受け、その直後に督促処分を受けたのです。
そこで、A子さんは初めて、Cさんが当初の4億円について贈与税の申告をしていなかったこと、しかも課税庁の勧奨により期限後申告書を提出したものの、それ以後も全く税金を払っていないことが分かったのです。そのため延滞税や無申告加算税も賦課されており、それらに対しても連帯納付義務が発生していました。これを見てA子さんは驚愕しました。