前回は、家族信託の「信託受益権」を活用した相続税対策について説明しました。今回は、家族信託で重要となる「受託者」の選び方を見ていきます。

契約書に不備があれば「贈与」と見なされる可能性も

家族信託でできることは本連載の第9回~12回で説明しました。実は、信託契約書ではそれ以上に複雑な内容でも契約できるのですが、あくまで財産の整理や管理を円滑に運ぶための手法なので、投資リターンを期待したり、税務的なメリットを生んだりするものとは考えないほうがいいでしょう。


また、受託者は、お金を自分が動かせるからといって、不動産管理、売却、土地活用、金銭運用などの行為すべてを自由にしていいわけではありません。あくまで契約書の内容を実行するのみで、いくら親子の関係だといっても契約書以上のことをするのは許されません。


契約内容自体は親子で話し合って決めるので、受託者の都合のいいように作られていることもよくあるとは思います。ただその契約書に不備があれば、当然、後の税務調査で贈与とみなされる危険性がありますので、契約書の作成は弁護士、司法書士、あるいは家族信託に慣れている税理士に依頼するのが賢明な選択です。

家族信託には税務署の監査以外のチェック機能がない

また、金銭の管理も重要です。主に信託口座にて行いますが、この明細が後にとても大事なものとなります。ですので、信託帳簿を用意して管理するとよいでしょう。というのも、資金管理をきちんとしていないと、今後、税務署の調査で信託口座のお金の出入りを細かくチェックされることになるのではないかと筆者は考えています。「家族信託」の契約書を盾に、受託者が自分で好きなものや不動産を買ってしまったら、税務調査において「それは贈与ですよね」と指摘されてしまうというわけです。


なぜ税務署職員に目をつけられるかというと、現在、家族信託は税務署の監査時以外にチェック機能がないからです。つまり、受託者である子どもが「俺が任されたんだから、俺が好きなように使って何が悪い」と思ってしまい、自分勝手に使ってしまうことがあっても、その時にチェックできる人がいません。


委託者はそもそも、自分が動けない代わりにこの信託を利用しているのでチェックは難しいですし、信託口座のお金を受託者である子どもが使い込んでしまったとしても、親が訴えることはほとんどありません。


しかし、受託者が自分勝手に使ってしまったら納税義務が不透明になってしまいますし、食費や生活費として使ってしまったら、それこそ領収書はないでしょう。そのような事態を見すごしたら、税務署の面目は丸つぶれというものです。税務署がそのまま黙っているということは考えにくいのです。


このように、まだまだ整備が追いついていない制度ではありますが、将来的には法律的に認可された機関がチェック機能を持つと考えられます。現状で、お金を目的外で使うリスクやチェック機能がないことなども踏まえると、委託者は慎重に受託者を選ぶ必要があることがわかってくるでしょう。複数の子どもがいれば、できる限り信頼のできる子どもを見極めて受託者にすることをお勧めします。

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    本連載は、2013年8月2日刊行の書籍『相続財産を3代先まで残す方法』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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    廣田 龍介

    幻冬舎メディアコンサルティング

    高齢化による老々相続、各々の権利主張、そして重い税負担…。 現代の相続には様々な問題が横たわり、その中で、骨肉の争いで泥沼にハマっていく一族もあれば、全員で一致団結して知恵を出し合い、先祖代々の資産を守っていく…

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