前回は、家族間の契約で資産を引き継ぐ「家族信託」について説明しました。今回は、家族信託を有効活用した事例を見ていきます。

子が親名義の自宅を売ることは本来許されないが・・・

前回では、家族信託のメリットを解説しました。今回は、具体例を基に実際の活用法をご説明します。これを活用する動きはまだ静かに広がっている段階ですので、シンプルで最も活用しやすい3つの例を紹介します。


まず一つ目は、動けない親の代わりに子どもが自宅を売却するケースです。


ある時、被相続人となる一人暮らしの親が、介護が必要な状態になってしまったとします。具体的に考えられるのは、脳梗塞や心筋梗塞で倒れ、体のどこかに麻痺が出たり、車いす生活になったり、あるいは認知症の症状が出てきて要介護の状態になったりといったことが挙げられます。

 

こうなると、これから先の選択肢としては、介護施設に入るか、介護をしてくれる子どもなどと同居するといったことになります。しかし、介護施設に入るほどの現金がなく、子どももどうしても同居して介護する余裕がない場合、自宅を売却するしかありません。


しかし、体が動かない状態で、自分で自宅を売る手続きをすることは難しいものです。子どもに頼むとしても、子どもが親名義の自宅を売ることは法律で許されていません。こういった時に家族信託を事前対策として使います。


信託の契約を交わせば、親は委託者となり、受託者である子どもが親の自宅を売ることが可能になります。売却で得たお金は親のものですから、そのお金を使って子どもは親の面倒を見ることができますし、介護施設の費用に回すこともできるのです。現金に余裕があるのであれば、親はお礼として子どもに贈与することも検討できます。このようにお互いにとってメリットがあるようにしていけるのです。

面倒な「権利調整」を親に代わって行うために・・・

2つ目の家族信託の活用事例は、面倒な権利調整を親に代わって行うものです。


例えば、夫に先立たれた80代の女性がいて、その方が都心の地主だとします。自分の弟に土地を貸し、弟はその土地にマンションを建てて収入を得ていますが、弟は、姉弟の関係に甘えて、長年、地代も固定資産税も払っておりません。その女性は地代をもらえないのはともかく、弟のために高額な税金を何十年も払っているのです。


都心の地価の高い場所なので、このままその女性が亡くなり、何も対策をとらないまま相続となったら、何千万円という相続税が相続人に課税されてしまいます。つまりこの場合の底地は、債務のようなものということになります。


その土地を引き継ぐ一人娘の長女には、当然、何千万円といった相続税を納められるあてはありません。娘としては母親が生きているうちに、その土地を母親の弟である叔父に買ってもらうか、叔父と一緒にその土地を売るかの生前対策をしてほしいと願っています。


しかし叔父は、地代や固定資産税を払っていない土地に建物を建てて、収入を得ている負い目もあって、なかなか交渉の場に出てきてくれません。母親もしばらくは説得を試みていましたが、根負けしてしまっています。


そこで母親に代わって娘が、次の一手を打つために選んだのが家族信託でした。すぐに母親と娘は家族信託の契約を交わします。委託者は母親で、受託者は一人娘の長女です。土地の所有権を娘に移転するために登記をし、娘が母親の代わりに叔父と交渉できるようにしました。


娘は、いまさら叔父を責める気はなく、親戚同士なので独自に不動産鑑定士を入れるなどして、割安な評価額で売買を行い、この微妙な関係性を解消することでスッキリしたかっただけなのです。それを、母親に代わって、わかってもらえるように努力し続けるのです。


このように交渉に時間がかかったり、労力が必要だったりするケースでも家族信託は有効だと言えます。また、実の姉弟では話しにくいことでも、第三者が冷静な立場で話してみたら、意外と簡単に解決することも多いと思います。遺言書が相続対策だとしたら、このケースでの家族信託は、「相続対策のための対策」です。家族信託はこのようにも使うことができます。

 

次回は、家族信託を活用した3つ目の事例を見ていきます。

本連載は、2013年8月2日刊行の書籍『相続財産を3代先まで残す方法』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

相続財産を3代先まで残す方法

相続財産を3代先まで残す方法

廣田 龍介

幻冬舎メディアコンサルティング

高齢化による老々相続、各々の権利主張、そして重い税負担…。 現代の相続には様々な問題が横たわり、その中で、骨肉の争いで泥沼にハマっていく一族もあれば、全員で一致団結して知恵を出し合い、先祖代々の資産を守っていく…

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