家族信託は6つのパターンにあてはめて考える
これまでの連載で、家族信託がどのように使えるかイメージができたのではないかと思います。これから、家族信託が有効に使える被相続人のケースをまとめておきます。
①特定の目的(入院、老人施設入所など)のために資産を活用してほしい
②自分ではお金の管理がおぼつかないので、年金のように毎月定額を渡してほしい
③権利調整が必要な不動産がある
④収益性のある不動産の管理を頼みたい
⑤孫が一定の年齢になったら、資産を渡したいと考えている
⑥資産が多いので、子どもが資産を使いきれずに死亡したら、その次のもらい手まで指定しておきたい
①~④のできることは、親の身代わりとなって子どもがお金の管理をできるスキームです。
⑤については、平成25年4月1日から、祖父母から孫への教育資金の贈与が1500万円まで非課税となったことを利用するものです。これも信託の一部なのです。孫が教育費としてまとまったお金が必要となるのは、高校入学時や大学入学時。入学金や授業料は祖父母から学校へと直接に振り込むとことで非課税枠が使えるのですが、それまで祖父母が健在かどうかはわかりません。そこで家族信託で「孫へ教育資金を贈与しなさい」と受託者に託し、その時期まで預かるというわけです。ちなみに孫へ現金を非課税で引き継ぐのは、遺言書ではできないことです。
⑥については、連続信託と呼ばれるやり方です。信託した財産などから利益を得ることができるのが受益者ですが、その受益者を複数設定して順位付けしておくのです。つまり、契約書に裏書ができ、手形のように次々と渡していくことができるのです。先の順位者が死亡した場合には、次の順位者に受益権が移り、委託者は自分が亡くなった後も、30年先まで資産の行き先を指定できます。しかも法的相続順位を無視でき、スキーム上ではまだ見ぬ孫まで順位に組み込むことができるようになっているのです。
ただし、この連続信託は、相続税、贈与税、遺留分が順位を移すごとに発生するため注意しなければなりません。また30年先といっても、その時には状況がどのように変わっているかは予想もつきません。本連載の第13回で紹介したように、チェック機能が確立していないこともあるので、大きな期待はできないのです。
このように、家族信託は、今は主にこの6つの考え方を中心とした使い方を推奨しています。これを、人それぞれの状況に応じて使い分ければ、相続税対策のための対策として有効である優れた契約書となるでしょう。
意思を確実に残すには家族信託と遺言書のセットが有効
この家族信託と併せて遺言書を使うと効果的です。例えば、親がまだ現役のうちから家族信託で子どもに資産を託し、「お前、この収益不動産を管理してみろ」というようなケースを考えてみてください。そうすると、財産の所有者が親のまま、子どもは試用期間のような状態で、その資産を運用していくことができるのです。親が現役ならその都度アドバイスもできるので、相続後にぶっつけ本番ということがなくなっていきます。
受託者は無報酬ですから、そこまで本気になれるかどうかという問題も出てきますが、そこで、遺言書に「受益権を○○に相続させる」と記すことを伝えておくのです。信託契約に記しておいてもよいのですが、遺言書に記すのが確実です。それによって、今のうちから本格的にやっておく意義が出てきますので、真剣に取り組めるようになるのです。このようにして、家族信託と遺言書を組み合わせて使えば、確実に自分の意志が残せるようになっていきます。
本連載では遺言書と家族信託を説明してきました。財産の棚卸をした後、それぞれの状況に応じてこの2つを駆使できれば、現代の相続事情の中でも、きっともめずに相続が可能になるはずです。