家族信託での相続税対策では信託収益権の贈与を実施
家族信託では、信託で得られた収益はすべて委託者であり、受益者である人のものになります。受託者はいくら自分が管理や運営をしても、自分の利益にはなりません。もともとそういう契約ですので、契約時にその旨を了承することが受託者になる条件でもあります。
信託した財産、もしくはその財産から生まれる新たな収益を手に入れる権利を「信託受益権」といいます。信託契約を結ぶ際には、信託受益権証書というものを、委託者であり受益者である人が持つことになります。大仰な名称ですが、紙1枚ほどのものです。
この家族信託は、あくまで財産は委託者であり受益者のものですから、基本的には節税対策とは切り離して考えられているようです。つまり、信託した財産を売却するなり贈与するなりということをしないと、相続税対策には結びつきづらいのです。
これを、相続税対策として活用できるとすれば、信託受益権の贈与という方法があります。贈与すれば、信託した財産はその贈与された人のものになります。これは受託者であってもいいですし、受託者でなくてもいいのです。子どもへの相続税の課税などを考えて、孫に贈与するのでも構いません。家族信託の契約時には、この信託受益権の行方を記すことができます。契約を結ぶ際に、最終的に誰にこの信託財産を渡すかということも考えておくとよいでしょう。
信託は移転コストのカットにも使える
家族信託は、大部分の方の場合、親が高齢であるために子どもに託して管理してもらうという活用法が主体にはなります。ただし、相続税の最高税率を納税することになるような資産家であれば、信託と法人化という手法を使って、不動産の移転コストを削減しながら、かつ相続税の納税資金をねん出する方法があるのです。ただこれには、少々テクニックが必要です。
信託受益権を使った相続税対策の中でも、高額な移転コストを削減するために活用した例として、次の事例を紹介しておきます。
この方の場合、相続発生後に納税資金をねん出する方法として、信託を活用することになりました。委託者は相続で収益不動産を相続した長男です。相続税額20億円と、収益不動産の相続により承継した借入金が20億円で、債務総額は合計40億円ありました。
そこで長男は、収益不動産のうち約40億円相当の不動産を、以前から保有していた不動産管理会社に信託(委託)します。そして、受託者(法人)が発行した信託受益権40億円を新しく作った法人に売却します。40億円の融資を実行してくれる金融機関もこの不動産の収支計算で返済計画を検討していきますので、むしろ新設法人のほうが融資の審査がしやすいということもあります。
移転コストも、直接不動産を売却すると、移転登記費用は土地で1000分の15、建物で1000分の20、不動産取得税は土地3%、建物4%となり、合計で約2億円強になります。これが信託登記であれば、土地で1000分の3、建物で1000分の4になり、不動産ではありませんので不動産取得税はかかりません。
つまり、信託受益権の移転コストは2000万円弱となり、圧倒的に移転コストを節約することができるのです。このスキームは不動産投資ファンド、いわゆる不動産の証券化の家族版であり、大資産家に使える手法ですが、やがては一般的に使えるスキームが出てくるかもしれません。